皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

文字の大きさ
上 下
81 / 170

80

しおりを挟む

「うをっ!!」

殴りかかられたのはマコト様なのに、マコト様ではない野太い男の人の痛みを堪える声が聞こえてきた。
なにが起こったのかと恐る恐る目を開けてみると、マコト様の身体の回りに薄い水色の膜がマコト様を守るかのように包み込んでいた。

「相手を倒すなら情報を集めなければいけませんよ。私のことを知らない貴方に私は倒せません。さあ、貴方はこの教会から手を引きなさい。」

マコト様は普段は見せない絶対零度の瞳で壮年の男を射抜く。
整っている容姿を持つマコト様が睨みをきかせると凄みが増す。
壮年の男もギリッと歯を噛み、悔しさに眉を潜めた。

「くそっ!」

「シーヴァ、引きなさい。皇太子の側近である彼には今のシーヴァでは、勝てない。いやいや、連れが失礼したね。我々は今日のところは引き下がらせていただくよ。だがね、この教会とそちらの御嬢さんのことは諦めきれないのでね。またお会いしましょう。」

初老の男性が、シーヴァと呼ばれた壮年の男を引き連れて席を立つ。
不穏な言葉を残しながら二人の男性は、教会から出ていった。
残された私たちは、安堵のため息をひとつついた。

「何があったんですか?」

私がシスターたちに訪ねると、シスターたちは目を潤ませながら答えた。

「助けてくださりありがとうございます。マコト様。」

「彼らはこの教会の土地を狙っているのです。そして、治癒の魔法を使えるライラさんにも目をつけたようです。」

シスターたちは、マコト様のことを知っていたのだろうか。ごく自然にマコト様の名を呼んでいる。

「教会と私を………?そう、私が貴女方を巻き込んでしまったのね。」

せっかく見つけた癒しの空間だったのに。もう、この教会には来ることが出来ないだろう。
私のせいでシスターや幼い孤児を危険な目に合わせることはできない。
でも、教会も狙っているということは、私がいなくなってもダメってことだろう。

「いいえ。元々この教会はあの人たちの手の者により、嫌がらせを受けていたのです。私たちが教会から出ていくようにと。」

「そうです。ライラさんはこの教会に来たことで彼らに目をつけられてしまった。私たちがライラさんを教会内に招き入れなければこんなことには………。」

シスター二人はうつ向いてしまった。その目には涙が浮かんでいたのを、私は見逃さなかった。

「さて、そのような不毛なやり取りをしていても仕方ありませんよ。対策を考えなければなりません。私が出てくれば彼らも教会から引くかと思いましたが甘かったようですね。彼らは反皇太子派の人間のようですね。」








――――――――――――――――――――――――
エドワード視点の裏話を近々公開予定です。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

処理中です...