皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

文字の大きさ
上 下
44 / 170

43

しおりを挟む
注:人が亡くなる表現があり、R15となります。苦手な方は閲覧されぬようお願いいたしますm(_ _)m

―――――――――――――――――――――




「うっ………ううん………。」

エドワード様が声をあげ、ゆっくりと目を開いた。
目が掠れるのか何度かまばたきを繰り返す。
それから、ゆっくりと起き上がった。
立ち上がろうとして、血が足りないためか、くらっと傾いたので、慌てて全身でエドワード様を支える。
その時、チラリとエドワード様の目が私を認識した。

「君が助けてくれたのか?」

こくりと頷く。
エドワード様は私がレイチェルだってことに気づいてくれるのかしら。
ドキドキしながら、エドワード様を見つめる。

「ありがとう。私はもうここで死ぬかと思った。それくらい酷い傷だったと思うが、それを治してしまったとするならば、君はとてもすごい治癒師なのだな。もしかして、聖女様であったりするかい?」

フルフルと頭を振る。
私は聖女様ではなくて、レイチェルなの。
気づいてエドワード様。
気づいて欲しいという思いをこめて、じっとエドワード様を見つめる。

「君の名を教えてくれるかい?」

「………レイ。」

エドワード様は私に気づかない。
名前を尋ねられたので、エドワード様がいつも呼んでくださる愛称を告げた。
でも、エドワード様は私だということには微塵も気づかないようだ。

「そうか。いい名だな。レイ、私のそばに誰かいなかったか?」

「誰も見かけませんでした。エドワード様だけが、こちらで倒れていらっしゃいました。」

「そうか………。」

私がエドワード様と呼んでも気づかない。見た目が違うから気づかないのかしら。
残念に思い目を伏せる。

「私はもういかねばならない。レイ助けてくれて礼を言う。また会うことがあれば、必ずレイの力になろう。」

エドワード様は私にお礼を言うと、ふらふらとしながらも歩きだした。
私はエドワード様に置いていかれるの?ここがどこかもわからないのに。

「私も一緒に行きます。そんなに足取りが危ないのに一人で行くなんて危険すぎます。」

もっともな理由をつけて、エドワード様の身体を支え、一緒に歩き出す。

ねぇ、エドワード様。私はレイチェルなのです。気づいてはいただけないのですか?

「そうか。ありがとう。君は優しいね。」

エドワード様の体温を右側に感じながらゆっくりと歩き出す。
エドワード様は以外としっかりとした足取りで前に進んで行った。
しばらく歩いていると、見慣れた男性が倒れていた。

「ロビンっ!!」

エドワード様は焦ったように、男性に近づく。そうだ、彼はロビン様。エドワード様の側近の一人だ。

「う………うぅ。エドワード様………ご無事で?」

「ああ。ああ。今、治療を………。」

「………不要でございます。私は………もう。それよりも…………レイチェル様が………赤子を………お産みに………レイチェル様………意識不明の………状態………です………。お早く………お戻りに………。」

「………わかった。」

ロビン様の傷はエドワード様よりも酷いものだった。
お腹が裂かれ、内蔵がはみ出してしまっている。呼吸をするのも苦しいのだろう。息も絶え絶えな様子だ。
千切れた腸が痛々しい。
この状態だと、治療することも無理だろう。
それに血も出すぎている。
辺りは血の海だ。
ごふっとロビンは口から血を吐き出す。

「エドワード様。彼はもう………。せめてもの慈悲として一思いに首を落としてあげてください。」

「………わかった。」

「ありがとう………ございます。………エドワード様どうか…………ご無事で。」

エドワード様は私にロビン様の上半身を支えるように言うと、自らの剣を鞘から抜いた。
ロビン様はゆっくりと目を瞑る。

「レイ、動かぬように。ロビン、今までありがとう。」

ビュッと剣が優雅に振り落とされる。

お腹を裂かれた者は苦しみながら死ぬ。この世界での治療法では、千切れた内蔵を治癒させる方法がない。
治癒魔法でも、だ。
だから、せめてもの餞として首を切り落とす。少しでも苦しむ時間が短くなるようにと。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...