皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

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ふいに足を生暖かい液体が伝う感覚にビクリと震える。

私はいったいどうしたというの・・・。

「・・・破水しちまった。こんな道じゃなく早く清潔なベッドに・・・。」

アンリ様の言葉にビクッと身体が震える。

破水・・・?

赤ちゃんが産まれようとしているの?

でも、マリアンヌ様が言うにはまだ産まれるのは一月も先だと言っていたのに。

「・・・エドワード様ぁ。」

不安に駆られて呼ぶのは、今も大好きなエドワード様の名前。

ポロリと目じりから一筋の涙が零れ落ちる。

助けて。

神様。

どうか、この愛し子の命を奪わないで下さい。

「大丈夫だよ。レイチェル。大丈夫だからね。すぐにマリアンヌが来るよ。」

「・・・はい。」

私を安心させようと、私の背を優しく撫でながらアンリ様が声をかけてくれる。

その優しい手が私の中にある不安を少しだけ和らげた。

それと同時にお腹の痛みも少し引いたような気がする。

「立てるかい?」

そんな私の様子がわかったのか、アンリ様が私にそう声をかけてきた。

「はい・・・。」

足に力を入れてよろよろとアンリ様にもたれかかるように立ち上がる。

「ごめんね。私があんたを運ぶだけの力がなくて。」

「いいえ。すみません。ご迷惑をおかけしてしまって。」

「そんなこと気にするんじゃない。レイチェルはお腹の子のことだけを考えてやりな。」

「ありがとうございます。」

震える足に力を入れてアンリ様に支えられながらアンリ様の家にあがる。

「ちょっと待ってな。」

アンリ様はそう言って家の中の方に消えていった。

ドタドタと物音がしたと思ったらすぐにアンリ様がやってきた。

その手に布団と清潔なシーツを持って。

さっと、私の傍に布団を敷き、シーツをかける。

「ここに寝れるかい?」

「はい。」

布団に横になると、またお腹がズキズキと痛み出した。

アンリ様はそれを感じて背中を摩ってくれる。

「レイチェルが産気づいたって!!」

「ああ!破水しちまったよ。」

マリアンヌ様がバタバタと駆けながらやってきて、私の様子を確認する。

「予定より早いが産まれそうだね。」

「ユキを呼んでくる。」

アンリ様はマリアンヌ様に私を託し、部屋を出て行こうとしているが、それにマリアンヌ様が待ったをかけた。

「今、あんたの旦那が呼びに行ったよ。アンリはお湯をわかしておくれ。あと清潔なタオルを。」

「わかった。」

ドタドタとアンリ様が部屋を駆けずり回る。

マリアンヌ様は私のお腹を触診しながら励ましの声をかけてくれる。

「レイチェル頑張るんだよ。ちょっと早いが赤子は出てきたいと頑張っているんだからね。レイチェルも赤子の試練を応援してあげるんだよ。」

「は、はい。」

まだ見ぬお腹の中の赤ちゃんに「頑張れ。」と声をかける。

「レイチェルッ!!」

すると、そこに真っ赤な目をしたユキ様が駆け込んできた。

そうして、私の右手を握り締める。

「ごめんね、レイチェル!大事な時に傍にいれなくて!!」

「ユキ様・・・どうか泣かないでくださいませ。」

涙を流しながら私の手を握り締めるユキ様。

ユキ様の手の暖かさに心が落ち着いていく。

きっと大丈夫だと思わせる暖かい体温。

それからどれだけの時間が経ったのか、果てることのない痛みが何度も襲ってきた。

その度に、ユキ様が私の名を呼び励ましてくれる。

「産まれるよ!!」

今まで以上に強い痛みが襲ってきた瞬間、マリアンヌ様がそう叫んだ。

「おぎゃあ。ぎゃあ。」

「「「産まれた!」」」

赤ちゃんの鳴き声が耳に届いた。

産まれた?

産まれたの・・・?無事なの?

「レイチェル、産まれたよ。元気な男の子だよ。」

マリアンヌ様がアンリ様に赤ちゃんを手渡すと、アンリ様が手際よく赤ちゃんをぬるま湯の中に入れ血を流してくれる。

ユキ様は、私に男の子が産まれたことを教えてくれた。

よかった。

元気に産まれてくれて。

安心するとともに、まぶたが重くなり目の前が真っ暗になる。

「レイチェルッ!!」

ユキ様の悲痛な叫び声が意識を失う瞬間に聞こえてきた。

 

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