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「「にゃあ。」」

シロ様とクロ様が消えたと思ったら、ドアの向こうから二匹の鳴き声が聞こえてきた。

どうやら、シロ様とクロ様はユキ様の部屋の中に転移したようだ。

転移できるなんて、なんて便利なのかしら。

私も一緒にユキ様の部屋に転移させてくれればよかったのに。

部屋の中に入れない私には、何もできることがない。

ユキ様のためになにかしてさしあげたいのに。

本当に私には何もしてあげることができない?

「ご飯・・・美味しいご飯くらいなら用意できるかしら。」

ユキ様と過ごした数ヶ月で、なんとか料理ができるようになった。

ここ最近は、私がご飯を作ることも多くなってきた。

ユキ様がお腹を空かせて部屋から出てきた時のために美味しいご飯を用意しよう。

でも、まだパンを焼くことはできないからパンでも買ってこようかな。

キャティーニャ村にあるアンリ様が作るパンは絶品なのだ。

「こんにちは、アンリ様。」

この村での挨拶は「ごきげんよう。」ではなく、「こんにちは。」だということはこの村に来た初日にユキ様が教えてくれた。

「ああ、レイチェルじゃないか。いらっしゃい。今日は一人かい?」

「はい。今日のお勧めのパンを2人分いただけますか?」

アンリ様は恰幅のいい気のいい年配の女性だ。

「今日はクロワッサンがお勧めだよ。クロワッサンに切れ込みを入れて、ゆで卵でも挟んでみたらどうだい?」

「まあ。美味しそうだわ。是非、それをください。」

美味しそうな匂いをあげる焼き立てのクロワッサンに食欲を誘われる。

このクロワッサンに切ったゆで卵やレタスなどを挟んだらとても美味しそうだ。

「お待たせ。200ニャールドだよ。」

「ありがとうございます。」

クロワッサンを持ってきたバスケットに入れて手渡してくれるアンリ様に、200ニャールドを渡す。

ニャールドというのは、レコンティーニ王国の通貨だ。

大切にバスケットを受け取り、ユキ様の待つ家に帰ろうと、足を踏み出す。

「・・・いたっ・・・。」

突如襲ってきたお腹の痛み。

私は思わずその場にうずくまってしまった。

「どうしたんだい!」

急にうずくまってしまった私に驚いたアンリ様が駆け寄ってくる。

「お腹が・・・。」

ズキズキと激しく痛むお腹を抱えながら、駆け寄ってきてくださったアンリ様にもたれかかる。

いったいどうしてお腹が痛いの・・・。

言いようのない不安に襲われる。

赤ちゃん。私とエドワード様の赤ちゃん。

どうしたの。大丈夫なの。

「大変っ!ダミアン!!ダミアン聞こえるかい!!」

アンリ様は家の中に向かって、大きな声でアンリ様の旦那様の名前を叫ぶ。

その声は緊迫していて、余計に不安を掻き立てられた。

「どうした!」

すぐにダミアン様がかけつけてくれた。

そして、アンリ様にもたれかかっている私の姿をみて、大きく目を見開いた。

「待ってろ!すぐにマリアンヌを呼んでくる!」

マリアンヌ様というのはこの村唯一の薬師である。また医療の心得もあり、この村での唯一の医師でもある。

ダミアン様はすぐに走り去っていった。

 

 

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