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しおりを挟む黒い猫にクロという名前。
もしかして、ユキ様が時おり聞こえてくる会話の主なのかしら。
私は、ユキ様と知り合いだった・・・?
「レイチェル様?どうかしましたか?」
マコト様が突然固まってしまった私に話しかけてくる。私はそれを首を横に振って答えた。
「いいえ。懐かしいと思ったのです。いつだったか忘れてしまいましたが、遠い昔、私には黒い猫をクロと名付けた友達がいたような気がします。」
「それは、すごい偶然ですね。」
マコト様は綺麗に笑った。
確かに黒い猫を見て見た目どおりにクロと名付ける人は多いと思う。
偶然・・・そう片付けられればいいな。
そうじゃないと、私はユキ様と同じ異世界にいたことになってしまうもの。
「あ、噂をすればクロも来ましたよ。」
マコト様は開けっぱなしのドアから優雅にこちらに歩み寄ってくる黒い猫を指指した。
尻尾を立てゆらゆらと揺らしながらクロはこちらに近寄ってきた。
そして、そのままシロに近づくとシロの鼻に自分の鼻をくっつけて挨拶をしていた。
シロはそんなクロの頬をペロペロと舐めている。クロはゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「仲がいい猫たちなんですね。」
「ええ。しょっちゅう一緒にいるんですよ。」
マコト様はクロとシロを見ながら優しく笑う。
「この子たちは私たちがこちらの世界にやってきた日にこの世界の方からプレゼントされたんです。なんでもレコンティーニ王国では、大切な異世界からの迷い人には猫様を1匹付けるらしいですよ。」
「聞いたことがあります。レコンティーニ王国では猫様がそばにいればとても心強いですものね。」
そうか。
マコト様たちはこちらの世界に来てから猫様を与えてもらったのね。
では、やはり先ほど聞こえてきた会話の主はユキ様ではないのでしょうか。
レコンティーニ王国では猫様に危害を加えようとすると、加護の力が働いて危害を加えようとした人が他国に飛ばされるという。
しかも猫様をとても大切にしている国なので、自然と猫様がそばについている人も大切に扱われる風潮がある。
なんでも猫様のお気に入りの人物に危害を加えると猫様から報復があるらしい。
嘘か本当かわからないけれど。
「クロもシロもとても可愛くて、とても賢いんですよ。」
そう言って笑うマコト様は幸せそうにクロとシロを見つめていた。
マコト様ってクロとシロのことを大切にしているのだと感じた。
「あの・・・マコト様やユキ様は元の世界でも猫を飼っていたのですか?」
やっぱり時々聞こえてくる会話の主がユキ様なような気がしてならなくて、気づけばそう質問していた。
「いいえ。飼いたいとは思ってましたけどマンション・・・ええと、借りていた家だったので猫を飼うことができなかったのです。」
「そうでしたか。」
マンション。
初めてきいたはずの単語なのに、なぜだか容易に想像出来てしまった。
四角い箱のごくごく小さな空間にベッドやキッチンがあり、お風呂やトイレもある空間。
今、私がいる部屋よりもずっと小さいその部屋に生活する空間がぎゅっと濃縮されている。
今まで生きてきてそんな場所にいったこともないはずなのに、どうしてこんなに鮮明に思い描けるのだろうか。
「マンション・・・。205号室。斑鳩?」
なんだろう。そんな言葉が思わず頭に浮かんできて思わず声にだして呟いていた。
それを聞いたマコト様は目を大きく見開いた。
「私たちの部屋の番号に、私たちの名字・・・?レイチェル様・・・あなたはいったい・・・。」
「レイ!変わりないか?」
マコト様が思案顔で呟いていると急にエドワード様が現れた。
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