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「にゃあ。」

今ごろマコト様とユキ様とエドワード様はなにを話しているのだろうかと考えて、塞ぎこんでいると、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえてきた。
ゆっくりと辺りを見渡す。
窓の一部がほんの5㎝ほど空いており、そこから猫が入ってきたようだ。
窓の内側に真っ白い猫がちょこんっと座ってこちらを見ていた。

「可愛いわね。迷いこんできてしまったの?」

猫に語りかけるようにきいてみると、人間の言葉がわかるのか返事をするように「にゃあ。」とまた鳴いた。
そして、優雅なしぐさで私の方に歩み寄ってくる。真っ白で長い尻尾がピンッと上に伸ばされていた。

「こっちにおいで。」

そう言うと、身軽な動作でぴょいっと飛んで、私が座っているソファーに飛び乗ってきた。じぃっとこちらを見つめる青くて丸い瞳がとても綺麗だ。
吸い込まれそうな瞳を見つめていると、無意識に私の手が動き、猫の頭を優しく撫でていた。
ふわふわな感触に癒される。
猫も気持ちがいいのか、目を細めて手に頭をすりよせてくる。
猫の暖かな体温と手触りの良い毛並みにうっとりとしていると、嫌なことが全て忘れられるようだ。
このまままったりと全て忘れることができたらいいのに。
「にゃあ。」
それはダメだよ。というように猫が一声鳴いた。

「お名前を教えてくれるかしら?」

「にゃあ。」

猫と会話が出来るわけではないのに、思わず名前を聞いてしまう。
この猫は毛並みが良くて栄養状態も良さそうだから、誰かの飼い猫なんだと思う。
真っ白い猫の毛には一つの汚れもなかった。ちゃんとに手入れをしてもらっている証拠だ。
そのまま、どのくらい時が過ぎたのか猫は私の膝に頭をのっけて丸くなって眠ってしまっていた。
そんなとても優しい時間はドアを叩くノックの音によって破られた。

「どなた?」

ドアの前で警備をしている近衛騎士が止めないから危険な人物ではなさそうだ。
そう思って返事を待つ。

「マコトです。レイチェル様に先ほどのことを謝りたくて・・・。」

「まあ、マコト様。入ってきてくださいな。」

申し訳なさそうな声を出すマコト様。先ほどのことは別に私は怒ってはいない。
どちらかというとエドワード様のことを信じていいのかわからなくなっただけだ。
マコト様に入ってくるように促す。
「失礼いたします。」と、マコト様は言いながら部屋に入ってきた。

「立ち上がらなくてごめんなさいね。今、可愛いお客様が来ているのです。どうぞ、そちらにおかけになって。」

膝に頭をのせて寝ている猫を起こさないように、マコト様に告げて、目の前にあるソファーに座るように促す。
マコト様は騎士の方になにやら囁くとそのままこちらにやってきた。
騎士たちはなにをきいたのか、部屋のドアを閉めることはなかった。
そして、私の方を向いて驚いた顔をした。

「どうしました?」

「あっと・・・。その白猫。私の猫なんです。」

どうやらこの可愛い猫はマコト様の猫だったようだ。いつの間にかここに来ていたから驚いたのだろう。

「そうだったの。とても可愛い子ね。名前はなんていうのかしら?」

起こさないように猫の頭を優しく撫でながら、マコト様に問う。

「シロと言います。」

「まあ!見た目どおりなのね!ふふっ。」

可愛い猫はシロという名前でした。マコト様って以外と名付けのセンスがないのかもしれません。
まあ、シロという名前もとても可愛いですけど。どちらかというとシロと言えば、犬の名前のイメージが強い。

このセンスの全く感じない名付け方。なんだかとても懐かしいような気がする。
誰だったかしら・・・?

『この猫は真っ黒だからクロね!』

『クロって・・・。』

『だって、この猫ってば黒いんだもの。』

急にまたいつもの声が聞こえてきた。
懐かしい誰かとの会話。でも、まだ誰との会話だったのか、思い出すことができない。

「ユキも猫を飼っているんです。ユキの猫は真っ黒なので、ユキがクロって名前をつけてました。」
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