上 下
12 / 170

11

しおりを挟む

「あの・・・エドワード様はとても優しいお方です。なぜ別れろなど・・・。」

混乱しながら、マコト様とユキ様に確認する。
ユキ様は会ったばかりだからわからないが、マコト様は一ヶ月一緒に過ごしてみて嘘をつくような人ではないことはわかっている。

「それは・・・。」

マコト様が言い淀んだが、

「あなたが悪役令嬢だからよ。」

ユキ様がきっぱりと告げてきた。

「えっ?・・・うっ。」

【悪役令嬢】その言葉を聞いた私はまた胸のムカムカに襲われ気持ち悪くなってきてしまった。
今回はそれに目眩まで加わっている。到底座っていられる状況でもなく、「ごめんなさいね。」とマコト様とユキ様に謝って椅子にもたれ掛かる。
少し離れた場所に待機していた侍女が足早にやってくるのを視界の端でとらえたところで私の意識は暗転した。





『ヒロインのユキとマコトは悪役令嬢のレイチェルに立ち向かってエドワードの心を掴むのよ。』

『え?でも、レイチェルってエドワードの婚約者じゃなかったっけ?』

『そうよ。でも高飛車で卑怯で血も涙もないような人よ。』

『そんな人ならエドワードとの仲を妨害してくるんじゃ・・・。』

『もちろんよ。レイチェルの苛めに耐え抜きエドワードをゲットするのよ。まあ、でもエドワードなんていらないけどね。』

『ははっ。でも、目的のために手段を選ばないようなエドワードがなぜレイチェルを婚約者にしていたのかな?』

『さあ?政治的なものかしら?もしかしたらユキやマコトはエドワードの婚約破棄にいいように使われたのかもね。』

『・・・それを聞くとエドワードが一番ひどい性格をしているような気がするね。』

『そうよ!だから私エドワードを好きになれないのよ。』

夢だろうか。
真っ黒な視界の中で誰かが会話をする声が聞こえてくる。
いつも誰かと誰かが私とエドワード様のことで話し合っている。
それにしても、私もエドワード様も酷い言われようである。

でも、エドワード様と結ばれるのって王道なのよね?
他ルートはあるけれども、たしかにゲーム開発会社の一押しはエドワード様だったはず。

って、あれ?
王道って?
他ルートって?
ゲーム開発会社って?

自分の思考のはずなのに、意味のわからない単語がたくさんでてくる。
まるで、エドワード様と私が出ているゲームを私は知っているようだ。
もしかして、私は知っている?
私は大切ななにかを忘れてしまっているのだろうか。


「・・・イ。・・・レ・・・イ。・・・レイ。」

暖かい私を呼ぶ声に導かれるように意識が浮上する。
両手に暖かい感触がある。誰かに手を掴まれているようだ。

「・・・だぁれ?」

「レイ。私だよ。」

ゆっくり目を開けた先には心配そうに私の顔を覗きこんでいるエドワード様がいた。
ああ。
また私はエドワード様に心配をかけてしまった。

「エディ・・・。私また倒れたのね。ごめんなさい。」

「気にしないで。マコトとユキに何か言われたんじゃないのか?だからレイが意識を失ったのでは?」

声は優しいがエドワード様の目が笑っていないような気がする。
静かな怒りをエドワード様の中に見たような気がする。

「いいえ。異世界のことを聞いていただけよ。」

エドワード様と別れるように言われたのは黙っておく。今、エドワード様にそれを告げるのはよくないような気がしたのだ。

「本当に?君は二人を庇っているのかい?」

「庇ってはいないわ。」

優しく微笑んでいるはずのエドワード様の笑顔がなんだか怖い。
私が変な夢をみた影響でそう思うだけだろうか。

「そう・・・ならいいんだ。・・・アラン、二人を解放してあげて。」

前半は私に、後半は側に控えている近衛騎士のアランになにやら言っていた。アランへ何を言ったのかは聞き取れなかったが、「はっ!」と言って敬礼していたのできっとアランになにか命令をしたのだろう。
アランは部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...