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しおりを挟む「あ、私はマコトって言います。こちらの世界では異世界の迷い人って言われてます。」
にっこりととても人好きのする笑みで笑う。
ああ、皇太子殿下が言っていたのはこの方のことだったのね。
「あら、私、ここでのお仕事は1ヶ月後からって伺っていたのだけれども・・・。」
皇太子殿下から聞いていたのは1ヶ月後に迷い人がやってくるということ。
時期的におかしくて少し疑ってしまう。
「ええ。その前に一度会って話そうってことになりまして。私がここを気に入らなければここで働かなくてもいいと言ってくれました。職場見学のようなものです。」
「・・・そう、こっちよ。ついてきてくださる?」
目の前にいる方はとても嘘をついているようには見えない。
それならば、皇太子殿下の執務室に案内するのが筋だろう。
「ありがとうございます。」
ちゃんとにお礼も言えるいい子だ。
どうして、あの夢では私はマコト様を苛めるようなことをしてしまったのだろうか。
「・・・うっ。」
突然吐き気が込み上げてきて、その場に蹲ってしまった。マコト様が見ているというのに。
「大丈夫ですか!?」
案の定マコト様に心配をかけてしまった。近寄ってきて、優しく背中を擦ってくれる。
こうされるととても気持ちがいい。
吐き気が収まるようだ。
『このゲームはね。ヒロインが二人いるのよ。ユキとマコトっていうの。どちらかを選んでプレイするのよ。』
『ヒロインが選択式だなんて珍しいね。』
『うん。このヒロインたちには特徴があって・・・。』
突然、頭の中にいつか誰かとした会話がよみがえってきた。
いったい、いつ誰とした会話だろうか。
ゲームとかヒロインとかいったいどういうことだろうか。
「大丈夫ですか!?気持ち悪かったらこれにはいちゃってください。ゲロゲロ君一号です。」
マコト様はそう言って、不思議な紙袋を手渡してくる。
淑女が人前で吐くことはみっともないこと。そう教えられているけれど、この強烈な吐き気には耐えられそうにない。
マコト様のお言葉に甘えて、ゲロゲロ君一号を借りる。
しばらくゲロゲロ君一号のお世話になると、だいぶ吐き気が落ち着いてきた。
そろそろ動けそうだ。
「ありがとうございます。マコト様。」
「どういたしまして。このゲロゲロ君一号、私が作ったんですよ。私、馬車酔いが酷くて自分で作ってみたんです。この中に吐くと、内容物がこのゲロゲロ君一号に消化吸収されるから臭いもないんです。魔道具っていうらしいですよ。」
マコト様は嬉しそうにゲロゲロ君一号について教えてくれる。その目はとてもキラキラと輝いていて、魔道具を作成することが好きなようだ。
それにしても、ゲロゲロ君一号というネーミングセンスはどうかと思うが。
「魔道具を作れるなんてすごいのね。」
「いえ。私なんてまだまだで・・・。」
誉められたことが嬉し恥ずかしいのか頬をうっすらと赤く染めて頬をぽりぽりと掻きながらうつむく。
その姿は小動物のようでとても可愛らしい。
「遅くなってしまったわね。皇太子殿下との約束に遅れたりしないかしら。すぐに案内するわね。」
「あ、いいえ。私一人で行けます。吐き気が収まったといっても具合が悪いのでしょう?私は大丈夫です。」
「でも、あなた。道に迷ったっていっていたじゃない?」
「うっ・・・。」
私が指摘すると罰が悪そうに黙ってしまった。これは、私を気遣って大丈夫だと言っているみたいね。
私の中でマコト様への好感度が上がった瞬間だった。
「大丈夫よ。病気じゃないから。」
私はマコト様を皇太子殿下の執務室に案内した。
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