上 下
5 / 170

しおりを挟む
きらびやかな部屋の中央に人だかりができていた。
私は何事かと、人だかりの中に足を踏み入れ、中央にいる人物に目を向けてハッとした。

「君には見損なったよ。レイチェル。まさか異世界からの迷い人であるマコトを陰でいじめているとは・・・。」

皇太子殿下エドワード様が困ったように告げた。その顔はいつもの優しげな顔ではなく、本当に怒っている時に見せる無表情だった。

「そのようなことは決してしておりません。信じていただけないのでしょうか?」

「しらを切る気か?証拠も証人もいるのに?」

あれは・・・私?
私にそっくりな人が皇太子殿下とその側近の4人に囲まれている。
その状態を私は何故か離れた位置で見ていた。
これはいったいどういうことなんだろうか。
私の気持ちをおざなりにして場面は進行していく。

「エドワード殿下。どうして私のことを信じてくださらないのですか?私は皇太子殿下の婚約者ですわよね?」

「善人な他者を陥れるような人は私の妃にはふさわしくない。」

「そんなっ!マコト様が悪いのですわ!必要以上にエドワード様に近づくからいけないのですわっ!」

目の前にいる私は髪を振り乱しながら叫んでいた。

「醜い言い訳は聞きたくないよ。そんな君でも元は僕の婚約者だったんだ。潔く罪をみとめるといい。」

それに答えるエドワード様の声は固く、目の前にいる私をさけずんだ目で見つめていた。それは、回りを囲む4人も同じだ。

「レイチェル、君との婚約は破棄をさせてもらった。君は異世界からの迷い人であるマコトを苦しめた罪で1ヶ月後に処刑することになったよ。それまでは地下牢ですごしてもらう。」

「そんなっ!!なぜ私が!!処刑だなんて酷すぎますわっ!」

「君はそれだけの罪をおかしたんだ。楽に死ねないと思うといい。・・・連れていけ。」

私は淑女の姿勢を忘れてその場にしゃがみこみ泣き叫んでいた。
そんな私を冷めた目でみつめていたエドワード様はまわりにいる騎士に牢に連れていくように指示をした。
騎士たちは喚く私を無理矢理立ち上がらせると、ずるずると引っ張るように牢に連れていった。

「・・・なにかしら、これは。マコトって誰かしら?」

異世界からの迷い人のことは知っている。この国に恩恵をもたらす異世界から突然やってきた人たちのことを指し示している。
数十年に一度の割合でやってくる異世界からの迷い人は実に様々な益を国にもたらしてくれた。
それ故、異世界からの迷い人は国から手厚く保護されている。
その迷い人を私が虐げたと?
どういうこと?
それにしてもこの場面、はじめて見たはずなのにどこか見覚えがあるような・・・。
いつ、どこで・・・?





「・・・イ・・・レイ!」

トントンと軽く肩を叩かれて、誰かに名前を呼ばれる。

「起きて、レイ!」

ゆっくりと目を開けると目の前にはエドワード様がいた。

「ひっ・・・。」

思わず怯えたような声がでてしまう。先程まで見ていたエドワード様の冷めた眼差しを思い出してしまったのだ。

「大丈夫かい?レイ?」

エドワード様は心配そうに私を見つめてくる。私の手をとり、やさしく唇を寄せる。

「とてもうなされていたよ?怖い夢でも見た?」

今ここにいるエドワード様はとても優しい眼差しで私を見ている。とても暖かい瞳。
では、先程のエドワード様は・・・?

「夢・・・を見ていたのかしら?」

夢にしてはやけにリアルだったような気がしたが。あれはいったい・・・。

「ずっと、魘されていた。とても怖い夢をみていたんだね。大丈夫だよ、レイ。私がそばにいるからね。」

そう言ってやさしく私を抱き締めてくるエドワード様。
とても暖かい体温で気持ちがいい。強張っていた身体が徐々に癒されていく。

「とても怖い夢を見たのです。エディが私から離れていく夢でした。そうしてエディが異世界からの迷い人のマコト様の手を取る夢を見たのです。」

あれは、夢。
とてもリアルだったけれど夢だった。
その内容をエドワード様に告げると、ハッとしたようにエドワード様の身体が固くなった。

「私は君に異世界からの迷い人の名前を言ったことがあったかい?」

「え?」

今回来たと言う異世界からの迷い人の名前はマコト様というの?
あれは・・・本当に夢だったの?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...