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馬車の中で……

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「お姉さま、なぜもう帰るんですの!?まだ王妃様に会ったばかりじゃない。王妃様とお茶を飲むはずだったのでしょう?それにルーンファクト様もいらっしゃったのよ。ここは未来の旦那様と未来のお義母様と親睦を深めるのが普通だわ。私がルーンファクト様と仲が良いのが見てられなかったのかしら?でも、それってせっかく王宮に呼んでくださった王妃様に対して失礼よね?見ていられなかったのなら、お姉さまが一人で帰ればいいじゃない。なんで私まで帰らなければならなかったの?」

 王宮から屋敷に帰る馬車の中、アルフォネアはずっと私に対して文句を言っていた。

 なにもわかっていないアルフォネア。

 私がどれほど気を揉んだことか。下手をしたら王妃様に対する不敬罪に問われてもおかしくはないのだ。

「……結婚もしていないのに、王妃様のことをお義母さまと呼ぶのは王妃様に対する不敬だわ。」

「もうすぐ、私はルーンファクト様と結婚するのよ。少しくらい早まったって王妃様は許してくれるわ。それに私のことこの国のお姫様だって言っていたわ。私は王妃様に好ましく思われているのよ。むしろ一日も早くお義母さまとお呼びした方が王妃様もお喜びになるわ。」

「……アルフォネア。まだ、ルーンファクト様の婚約者は私なのよ。あなたじゃないわ。」

「なによ!お姉さまったら私がルーンファクト様の婚約者よ。お父様だって言っていたじゃない。聞いてなかったのかしら?」

 アルフォネアはすっかり自分がルーンファクト様の婚約者になったと勘違いしているようだ。お父様があんなにはっきりとアルフォネアは相応しくないと言っていたのに。どうして、アルフォネアは自分の良い方に物事を捉えるのだろうか。

 私は頭が痛くなった。

 どうしようもなくルーンファクト様にアルフォネアのことを相談したくなった。ルーンファクト様は政務で忙しいのに。ルーンファクト様を煩わせたくないのに。

「今日あったことはお父様に一言一句もらさずに伝えるわね。王妃様とルーンファクト様に不愉快な思いをさせたことをお父様にしっかりと怒られることね。」

 侯爵家に馬車が到着すると、アルフォネアはそんな捨て台詞を吐いて馬車を降りて屋敷の中に入っていってしまった。きっとすぐにでもお父様とお母様に報告するのだろう。

「……頭が痛いわ。」

「……ご心痛お察しいたします。」

 頭を抱えながら馬車を降りると私の独り言を聞いていたのか、御者のアルフがそう言った。きっと馬車の中の私とアルフォネアの会話も聞いていたのだろう。

 私はアルフにニコッと笑いかけるとそのまま屋敷の中に入った。そうしてアルフォネアが向かったであろうお父様とお母様の元に向かう。

「お帰りなさいませ。ステファニー様。応接室でルーンファクト殿下がお待ちです。」

 お父様の書斎に向かおうとしたところ侍女のニコルが話しかけてきた。

「ただいま。ニコル。ルーンファクト様がいらっしゃっているの……?」

 不思議なことを言うニコルに私は首を傾げた。

 だって、先ほどまで私たちはルーンファクト様に会っていたのだ。寄り道もせずに戻ってきたというのに、ルーンファクト様が先に我が家にたどり着くはずがない。

 そこまで考えて、私はピンと来た。きっと、ルーンファクト様のそっくりさんだ、と。

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