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五章

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「うわぁあああ……。と、っと……っと。」

 涙で出来た穴を覗き込んでいるところに、後ろから急に肩を叩かれたものだからバランスを崩して穴に落ちそうになって慌てた。たたらを踏んでなんとか穴から落ちないですんだ。

「ちょ、ちょっと何をするんですかぁ。……って、え?イザナギ様?」

 一体誰が私の肩を叩いたのだろうかと後ろを振り返ると、そこにはイザナギ様の姿があった。

 まさか、イザナギ様が私の肩を叩いたとは思いもしなかったので驚いてしまった。てっきり、マーニャたちの誰かだと思ったのだけれども。

「そ、そんなに驚くでないのじゃ。失敬な奴じゃ。」

「落ちるかと思ってから驚いたんですよ。イザナギ様だから驚いたのではありません。」

「そうかえ?なら、よかったのじゃ。妾が触ったから驚いたのかと思ったのじゃ。マユよ、あまり妾を驚かせるでないのじゃ。」

 イザナギ様はそう言ってプイッと横を向いた。

 なんだか、性格までタマちゃんと良く似ているような気がする。

「それよりも、これじゃ。これを返すのじゃ。」

 イザナギ様は、顔を横にそむけたまま、白い腕を私に伸ばしてきた。そして、手の中の物を私に突きつける。

 私はイザナギ様の手の中を見つめた。

 そこには、先ほどイザナギ様に渡したトマトの種があった。

 なぜ、今になって急にトマトの種を返すだなんて言うのだろうか。先ほどまで絶対に返さないと豪語していたのに。急に態度が変わった理由はなぜだろうか。私はイザナギ様の突然の変わりようを不思議に思って首を傾げた。

「……早く受け取るのじゃ!」

「え?」

 なかなか受け取らない私にじれたのか、イザナギ様は私の手にトマトの種を無理やり握らせた。

「これはそなたに必要なものであろう!」

 イザナギ様は叫ぶようにそう告げた。

 私は意味がわからなくて首を傾げる。

 イザナギ様はいったい何を言いたいのだろうか。

「ほぉ。トマトの種、返すのかえ?さっきまで絶対に返さぬと言っておったのに。どうしたのじゃ?」

 タマちゃんもイザナギ様の態度を不思議に思ったようで、イザナギ様に直球で訊ねていた。

 イザナギ様はバツが悪そうにタマちゃんから視線を逸らす。

「……これがないとあやつらが帰れぬ。だから、返すのじゃ。」

「え?いや、別に。だって、トマトの種ですよ。別になくても帰れるかと……。」

「そうじゃ。たかがトマトの種ではないか。」

「いや!これがないとそなたらは帰れぬのじゃ!!」

 タマちゃんと私は、なぜトマトの種がないと帰れないのかわからなくて同時に首を傾げる。

 いったい、イザナギ様は何を考えているのだろうか。

 どうして、今この場でトマトの種がないと私たちが帰れないと言いただしたのだろうか。よくわからなくて私は首を傾げた。

「帰りたいのであろう!妾もそなたらとはさっさとおさらばしたいのじゃ!ゆえにそのトマトの種を使うのじゃ!!」

 

 

 

 


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