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五章
5ー39
しおりを挟む「プーちゃん……。」
プーちゃんは目の前にいるのに、話しかけることができないだなんて。
なんで、ここにプーちゃんがいるのか知りたいのに……。
「プーちゃん、とな?面白い名の精霊じゃなぁ。精霊がそのような間の抜けた名前で呼ぶことを許したのかえ?本当に?」
イザナギ様は怪訝そうに眉をしかめて私に聞いてきた。
「プーちゃんはあたしが名づけたの!」
「プーちゃんはマーニャがつけたの!」
「プーちゃんのお名前気に入ってるの!」
イザナギ様は私に聞いてきたはずなのに、マーニャたちが率先して元気よく答える。
そんなマーニャたちの方を見て、イザナギ様がすぅーっと目を細めた。
やばいっ。もしかして、イザナギ様の機嫌を損ねてしまったのだろうか。
ドキッとしながらも、イザナギ様の様子を伺う。
「ほぉぅ。面白いのぉ。それ、妾にどの精霊がそなたらに【プーちゃん】と呼ばせることを許可しおったのか教えてくれぬかのぉ?」
イザナギ様は、声を一段と低くして私たちにどの精霊がプーちゃんなのか教えろと言ってきた。
イザナギ様が怒っているのか、ただ楽しんでいるだけなのか、初めて会ったので判断がつかない。言葉どおりに捉えてしまってもいいのだろうか。それとも、プーちゃんになんらかのお咎めでもあるのだろうか。
「……。」
どう答えようか。
私は一瞬言葉に詰まってしまった。
どう答えたら最善なのかわからないからだ。
「プーちゃんはプーちゃんなのー!!」
「プーちゃんはとってもおまぬけさんなの。」
「プーちゃんはボーニャとマユが作ったトマトが大好きなの!」
と、考えるだけ無駄だったかのように、マーニャたちがそれぞれ声高らかに答えだす。
「えーーっ!!プーちゃんはボーニャよりマーニャの方が好きなの!!」
「違うもんっ!プーちゃんはボーニャやマーニャよりクーニャの方が好きなんだもん!」
「そんなことないもんっ!プーちゃんの一番はボーニャだもんっ!!」
というか、プーちゃんの一番を争って三匹で騒ぎ出す。
プーちゃんが誰を一番好きかってのがそこまで問題なのだろうか。というか、いつもマーニャたちはプーちゃんをおちょくっていたような気がするから、みんなプーちゃんの一番になりたかったなんて全然これっぽっちもまったく気が付かなかった。
そんな素振りみせなかったのになぁ。そこまでマーニャたちがプーちゃんのことを大好きだったなんて驚きだ。
「ふんっ。随分、その精霊はそなたたちに好かれておるのじゃのぉ。ずるいのぉ。羨ましいのぉ。」
目を細めて、顎をさすりながらイザナギ様は羨ましそうに精霊たちの列を見つめた。
「べっ、別にプーちゃんのことは好きじゃないの。」
「ちっ違うもんっ!」
「あ、あたしたちが皆の一番じゃなきゃ嫌なだけなの。か、勘違いしないでなのっ!」
ズコッ。
思わず私はその場に転んでしまった。
いや、プーちゃんの一番を競うってことはプーちゃんのことが大好きなんだと思うじゃん。普通。それが、みんなの一番じゃなきゃ嫌だって理由っていうことに驚いた。
ただ単にマーニャたちが恥ずかしがって、そう言っているだけかもしれないが。本心はプーちゃん大好きなのかもしれないが。
「まあ、よい。そういうことにしておいておくのじゃ。して、プーちゃんとやらはどいつなのじゃ?」
そりゃマーニャたちの説明じゃ、列に並んでいる精霊のどれがプーちゃんかなんてわからないよね。
先ほどより少し空気が和らいだような気がするイザナギ様がマーニャたちに再度尋ねた。
「「「プーちゃーーーんっ!!」」」
列に並んでいる精霊たちに、こちらの声は聞こえないと先ほどイザナギ様が言っていたにも関わらずマーニャたちは大声でプーちゃんの名を呼んだ。
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