上 下
532 / 584
五章

5ー39

しおりを挟む
 

 

 

「プーちゃん……。」

プーちゃんは目の前にいるのに、話しかけることができないだなんて。

なんで、ここにプーちゃんがいるのか知りたいのに……。

「プーちゃん、とな?面白い名の精霊じゃなぁ。精霊がそのような間の抜けた名前で呼ぶことを許したのかえ?本当に?」

イザナギ様は怪訝そうに眉をしかめて私に聞いてきた。

「プーちゃんはあたしが名づけたの!」

「プーちゃんはマーニャがつけたの!」

「プーちゃんのお名前気に入ってるの!」

イザナギ様は私に聞いてきたはずなのに、マーニャたちが率先して元気よく答える。

そんなマーニャたちの方を見て、イザナギ様がすぅーっと目を細めた。

やばいっ。もしかして、イザナギ様の機嫌を損ねてしまったのだろうか。

ドキッとしながらも、イザナギ様の様子を伺う。

「ほぉぅ。面白いのぉ。それ、妾にどの精霊がそなたらに【プーちゃん】と呼ばせることを許可しおったのか教えてくれぬかのぉ?」

イザナギ様は、声を一段と低くして私たちにどの精霊がプーちゃんなのか教えろと言ってきた。

イザナギ様が怒っているのか、ただ楽しんでいるだけなのか、初めて会ったので判断がつかない。言葉どおりに捉えてしまってもいいのだろうか。それとも、プーちゃんになんらかのお咎めでもあるのだろうか。

「……。」

どう答えようか。

私は一瞬言葉に詰まってしまった。

どう答えたら最善なのかわからないからだ。

「プーちゃんはプーちゃんなのー!!」

「プーちゃんはとってもおまぬけさんなの。」

「プーちゃんはボーニャとマユが作ったトマトが大好きなの!」

と、考えるだけ無駄だったかのように、マーニャたちがそれぞれ声高らかに答えだす。

「えーーっ!!プーちゃんはボーニャよりマーニャの方が好きなの!!」

「違うもんっ!プーちゃんはボーニャやマーニャよりクーニャの方が好きなんだもん!」

「そんなことないもんっ!プーちゃんの一番はボーニャだもんっ!!」

というか、プーちゃんの一番を争って三匹で騒ぎ出す。

プーちゃんが誰を一番好きかってのがそこまで問題なのだろうか。というか、いつもマーニャたちはプーちゃんをおちょくっていたような気がするから、みんなプーちゃんの一番になりたかったなんて全然これっぽっちもまったく気が付かなかった。

そんな素振りみせなかったのになぁ。そこまでマーニャたちがプーちゃんのことを大好きだったなんて驚きだ。

「ふんっ。随分、その精霊はそなたたちに好かれておるのじゃのぉ。ずるいのぉ。羨ましいのぉ。」

目を細めて、顎をさすりながらイザナギ様は羨ましそうに精霊たちの列を見つめた。

「べっ、別にプーちゃんのことは好きじゃないの。」

「ちっ違うもんっ!」

「あ、あたしたちが皆の一番じゃなきゃ嫌なだけなの。か、勘違いしないでなのっ!」

ズコッ。

思わず私はその場に転んでしまった。

いや、プーちゃんの一番を競うってことはプーちゃんのことが大好きなんだと思うじゃん。普通。それが、みんなの一番じゃなきゃ嫌だって理由っていうことに驚いた。

ただ単にマーニャたちが恥ずかしがって、そう言っているだけかもしれないが。本心はプーちゃん大好きなのかもしれないが。

「まあ、よい。そういうことにしておいておくのじゃ。して、プーちゃんとやらはどいつなのじゃ?」

そりゃマーニャたちの説明じゃ、列に並んでいる精霊のどれがプーちゃんかなんてわからないよね。

先ほどより少し空気が和らいだような気がするイザナギ様がマーニャたちに再度尋ねた。

「「「プーちゃーーーんっ!!」」」

列に並んでいる精霊たちに、こちらの声は聞こえないと先ほどイザナギ様が言っていたにも関わらずマーニャたちは大声でプーちゃんの名を呼んだ。

 

 

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。 といっても、ほとんど前と一緒ですが。 変わり者で、落ちこぼれ。 名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。 それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。 ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。 そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。 そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。 父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。 これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。 隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。 8/26HOTラインキング1位達成! 同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ
ファンタジー
 鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。  菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。  まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。  そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。 「私も異世界に行けるの?」 「……行きたいなら、別にいいけど」 「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」  半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。  そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?  これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。

処理中です...