婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚

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五章

5ー36

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「真っ白でなにも見えないねぇー。」

「マユ、本当にここにいるのかなー。」

「いるのー。マユの匂いがするのー。」

「えー。マーニャはマユの匂いしないのー。」

「えー。マーニャ鼻が悪いのー?」

「マユの匂いするもんっ!!」

「クーニャもマユの匂いわかるっ!!いるよね!ボーニャ!」

「うん!いるの!マユここにいるの!!」

 真っ白な空間をあてもなく漂っていると、賑やかな声が聞こえてきた。

 目を凝らして辺りを見回してみる。でも、視界に映るのは白い靄だけで、他には何も見えない。

 私の都合の良い幻聴だったのだろうか。

 そう思いながらも期待を込めて声を出してみる。

「……マーニャ?クーニャ?ボーニャ?……そこに、いるの?」

 ずっと声を出していなかったから声が掠れてしまった。それに思ったより小さな声になってしまった。もし、幻聴だったとしたらマーニャたちに会えたと期待した自分がとても滑稽だから。

「!?マユいたの!!」

「マユの声がしたの!!」

「マユーー。あたしたちはここにいるのー!」

 幻聴、ではなかったようだ。

 元気いっぱいの、とびきり可愛い声が私の名前を呼ぶのが聞こえた。

 よかった。

 マーニャたちに会えた。

「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。迎えに来てくれたの?でも、私にはマーニャたちの姿が見えないの。」

 ずっと真っ白な空間に一人ぽっちでいた。マーニャたちの名を呼んでも何も返答がなかったし、どこまで歩いても壁にもぶつからない。そんな状況に陥っていたから、例え声だけだとしてもマーニャたちの声が聞こえたことがとても嬉しかった。

 いつの間にか私の目には薄っすらと涙が浮かんでくる。

「あたしも真っ白なのー。」

「あたしもー。なにも見えないのー。」

「真っ白なのー。でも、マユの匂いはわかるのー。」

 ポスッと胸の辺りに暖かくやわらかな感触がした。恐る恐る触ってみると、ふわふわとした毛並みが感じられる。それとともに、ぼんやりとマーニャの輪郭が浮かび上がってくる。

「……マーニャ。」

 私は嬉しくなって、胸元のマーニャをぎゅっと抱きしめる。優しく温かいぬくもりがとても気持ちが良い。

「マユ。苦しいのっ。」

 そう言いながらも、マーニャは嫌がっていないようで軽く頭を左右に振るだけでもがくような様子はない。

「あーーーーっ!マーニャばっかりずるいのーーーっ!!」

「ボーニャも!!ボーニャも!!」

 ヒシッ。ヒシッ。と、暖かい塊がもう二つ私の身体に飛びついてくる。そっと、その二つの塊に手を伸ばして触れればクーニャとボーニャの輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。

「クーニャに、ボーニャ。迎えに来てくれてありがとう。」

 感極まって泣きながらそう言えば、マーニャのザラザラとした舌が私の目元を拭う。

「マユを迎えにくるのは当たり前なの。」

「あたしたちはマユのために存在しているんだもの。」

「そして、マユはあたしたちのために存在しているの。忘れちゃダメなの。」

「……うん、うん。そうだね。そうだね。」

 私はそう頷きながら、マーニャたちをヒシッと抱きしめた。もう二度と離さないと心に決めて。

 

 

 

「それじゃあ、帰ろうか。私、いつの間にかここにいたから帰り方がわからないの。だから、教えてくれる?」

 私はマーニャたちにそうお願いした。

「え?帰り道?知らないの。」

「クーニャも知らないのー。」

「マユに会いたいと思ったらここにいたのー。」

「え?」

 どうやらマーニャたちも帰り道を知らないようです。

 マーニャたちと会えたことは嬉しいけれど、どうやって帰ったらいいんだろう。っていうか、ここはどこなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

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