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五章
5ー34
しおりを挟む「マユがこの世にいないってどういうことなの……?」
「マユ、どこなの……?」
「マユが、ボーニャたちを置いていくなんてあり得ないの。」
マコトの言葉はあたしたちに強い衝撃をもたらした。
マユがこの世にいないだなんて信じられないの。おかしいの。
だって、マユがあたしたちを置いてどっかに行ってしまうわけなんてないんだから。マユはずっとあたしたちと一緒にいるのに。
「……それは、マユさんが死んだってこと?」
そう言ったのは誰だっただろうか。あたしの耳にはその言葉が聞こえてきたが、脳が処理するのを拒絶した。だから、誰が言ったことなのかわからない。それに答えたマコトの言葉もあたしには理解することができない。
「ええ。そうとしか思えません。」
「この屋敷のどこで死んだと言うのだっ!」
「……わかりません。ですが、この魔道具が反応を示さないということはそういうことです。」
「ふんっ!私たちの魔王様をたぶらかしたのだから罰が当たったのでしょう。……でも、あっけないですね。人間というものは。」
「でも、何も聞こえなかったわ。どこかに転移してしまったのではなくって?」
誰が何を言っているのかわからない。
理解したくない。
理解したくない。
理解したくない。
マユにもう会えないだなんて理解したくない。知りたくない。
あたしは全てを拒絶する。きっと、クーニャとボーニャもあたしと一緒なはずだ。
だって、あたしたちはマユのために女神様によって生を受けたのだから。マユのいない世界になど意味はない。
そう思っていると、不意にマユのあたしたちを呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「……マユのところに行かなくちゃ。マユが呼んでる気がする。」
「マユのとこ、行くの。マユきっと泣いてる。」
「マユに会いに行くの。マユきっと寂しい思いしてる。」
あたしたちは立ち上がって寄り添いあった。
「えっ!?マユさんのところに行けるはずがありませんっ!!戻ってこれなくなってしまいますよ!!」
立ち上がったあたしたちをマコトが止めるように立ちはだかる。
知らない。
マユがいないのなら、ここにいたって仕方がないのだから。
あたしたちはマユの側にいなきゃいけないんだから。
「邪魔しないで。マユのところに行くの。」
「マユに会いに行くの。」
「マユ、待っててなの。」
あたしたちは何がなんでもマユのところに行くの。そう、決めたの。
「どうやっていくんですかっ!!方法は知ってるんですか!!」
マコトがそう言ってあたしたちを引き留めてくる。
「行き方なんて知らないの。」
「でも、きっと行けるの。」
「マユに会いに行くの。」
あたしたちは引き留めようとするマコトたちの静止を振り切って、三匹で手を取り合い円陣を組む。
すると、あたしたちの身体が半透明になりゆっくりと宙に浮きあがった。
「「「マユのところへ行くの。」」」
あたしたちの視界からはマコトたちの姿が消え、目の前が真っ白になり何も見えなくなった。でも、繋いだ手から確かにクーニャとボーニャの暖かな体温を感じたから怖くはなかった。それよりも、マユに会えるという期待があたしたちを包み込んでいた。
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