婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

五章

５ー４

 

 

「ターちゃん・・・？」

ホンニャンはそう言って首をコテンッと右に倒した。

目を大きく開いて、口をちょこんと開けている様子はとても可愛らしいものがある。

その声もあどけなく加護欲を誘う。

マーニャたちも十分に可愛いけれど、ホンニャンもとても可愛い。

甲乙つけがたいくらいだ。

「ま、魔王様っ！！わ、私は魔王様がマユに汚されぬようにと・・・。」

あ、あれ？

ホンニャンはこんなにも可愛くてあどけないのに、どうしてタイチャンはいきなり慌てだしたのだろうか。

ホンニャンに名前を呼ばれて有頂天になるタイチャンだったら想像できるんだけど、ホンニャンに名前を呼ばれて怯えるタイチャンは全く想像できない。

でも、今目の前ではその想像ができない事象が起こっている。

「ターちゃん？」

幼子特有の高めの声が響く。

その響きはあどけないはずなのに、もう一度名前を呼ばれたタイチャンは何故か青ざめている。

本当にどうしたんだろう。ホンニャンはにこにこ笑顔を浮かべているのに。

「どうしたの？タイチャン。顔色が悪いみたいだけど、どこか具合でも悪いの？」

タイチャンが顔色を青くしているだなんて、あり得ない。私はタイチャンが具合が悪いのかと思って尋ねてみた。

すると、タイチャンはブンブンブンと音がするのではないかというほど、力強く首を横に振った。

「な、なんでもありませんっ。ま、マユさん。魔王様が所望しておられるのですっ！マーニャ様たちにしたように、魔王様を・・・魔王様を・・・ぐぅ・・・。な、撫でまわしてあげてくださいっっ。」

「へ？いいの？」

タイチャンは心底不服そうに私にホンニャンを撫でるように言ってきた。

その顔は苦痛に歪んでいる。

ほんとにどうしたんだろう。タイチャンってば。

心にもないことを言っているみたいだ。

なので、思わず本当にいいのかと確認してしまった。

「ぐっ・・・。だ、ダメですっ！！・・・と、言いたいところですが・・・。他でもない魔王様が所望しておられるのです。・・・な、撫でてあげてください・・・。」

タイチャンはそう言って下を向いてしまった。

っていうか、第一声がタイチャンの本心に聞こえたんだけど。

その後の言葉は何故か震えているようだったし。

でも、ま。いっか。

タイチャンから許可が下りたんだし。

これで可愛いホンニャンを撫でまわせる。

私はホンニャンを撫でられるということが嬉しくてにっこりと微笑んだ。

「マユ、ターちゃん良いって言っちゃの。撫でて？」

ホンニャンは無邪気に笑いながら私をキラキラと見つめてくる。

ぐっ。可愛い。なに、この可愛さ。

私はホンニャンに乞われるがまま、ホンニャンのサラサラな髪を撫で始めた。

ホンニャンは撫でられるのが嬉しいのか、くふくふと小さな笑い声を上げ目を細めている。その姿は幸せで満ち足りているように見えた。