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四章
4ー96
しおりを挟むマコトさんに連絡をいれると、マコトさんは二つ返事で頷いてくれた。
ただ、報酬としてプーちゃんの爪を要求されたけれども。
爪は切っても伸びてくるから問題ないと判断して私は了承した。
きっとプーちゃんも爪くらいなら許してくれるだろう。たぶん。
そうして私たちはマコトさんの協力を得てプーちゃんと元魔王様が暮らしているキャティーニャ村にある私の家に転移したのだった。
『マユーーーーー!!!マオマオが・・・マオマオが・・・。』
転移した途端に私の気配を察知したのか、プーちゃんが飛んできた。
そうして止まらずに私の身体にタックルをかましてくる。
「ぐぇ・・・。」
おっと乙女らしからぬ声がでてしまった。
でも、プーちゃんのタックルを受けたのだ。許して欲しい。
「プーちゃん、お、落ち着いて・・・。」
『マオマオ・・・。マオマオが・・・。マオマオ・・・。』
「わかったから。元魔王様に案内してくれるかな?」
プーちゃんはよほど焦っているのか元魔王様の名前ばかりを呟いている。
それでも、やっとの思いで元魔王様の元に案内してもらえた。
元魔王様は豪華ではないが、質のいいベッドで横たわっていた。
「マオマオ様っ!!」
すると、元魔王様の姿を見て、私の身体を押しのけるようにタイチャンが前に躍り出た。
そうして、元魔王様の元に駆け寄っていく。
その姿をプーちゃんは見ていたが何も言わずに自分も元魔王様の元に近寄っていき、元魔王様の骨と皮しかない細い腕を丁寧にさすっている。
もう、ベッドから起きることもできないようだ。
「元魔王様はいつからこんな状態なの?」
私はプーちゃんに問いかける。
元魔王様とプーちゃんの間を邪魔しちゃいけないと思ってそっとしておいたのだが、そっとしすぎてしまっていたようだ。
まさか、元魔王様がこんな状態になるまでプーちゃんから連絡がこないとは思わなかった。
『・・・今朝からなのだ。今朝、我が起きてからマオマオは目も開けてくれないのだ。我の問いかけにも答えぬ。』
プーちゃんは愛おしそうに元魔王様の指に自分の指を絡めるとそれを目の前に持ってきて祈るように目を瞑る。その瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちる。
「ご飯はいつから食べていないの?」
『・・・今朝からなのだ。昨夜までは食べてくれていたのだ。・・・でも弱っているのは手に取るようにわかったのだ。寝ている時間の方が多かったから。』
離れたくないとプーちゃんは元魔王様に覆いかぶさる。
もう離れていたくないとばかりに。
「・・・女王様には連絡したの?」
『・・・今朝までここにいたのだ。でも、この状態になったら出ていってしまったのだ。』
どうやら女王様はここから出て行ってしまったようだ。
なにかしら女王様には思うところがあってのことだろうが。
それとも、最期はプーちゃんと元魔王様を二人っきりにさせてあげたかったのだろうか。
もしそうだとするならば、私たちがここにいるのは女王様の思いを壊すことになる。
『っ!!どうしたのだっ!!なんだっ!!』
しんみりとしていると、プーちゃんが急に声を上げた。
そうして、元魔王様の口元に耳を寄せる。
どうやら、元魔王様が何か呟いたようだ。
私には聞こえなかったけれども、そばについていたプーちゃんには聞こえたらしい。
元魔王様の口元が微かに動く。
『わかった・・・。わかったのだ・・・。』
プーちゃんはそれに確かに頷くそぶりをして、私の方に視線を向けた。
『マオマオは・・・喉が渇いたと。酒が飲みたいと言っておるのだ。』
「そう・・・。でも、お酒は・・・。」
出来るのならば元魔王様の最期の願いを叶えてあげたい。
でも、生憎ここにはお酒の類はない。
「私が買いに行ってきますね。」
ここにお酒がないことを察したのか静かに様子をうかがっていたマコトさんがそう提案してくれた。
私はそれに対して「お願いします。」というしかなかった。
マコトさんが戻ってくるまで、元魔王様が頑張ってくれるといいんだけど・・・。
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