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四章

4ー38

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「でも・・・私には生きていく希望が、なにもない。彼女に謝ることもできない。彼女は今、幸せなのだから。今更私が会いに行っても仕方のないことだ。今更許しを請うなど彼女の負担になるのはわかりきっている。」

魔物と呼ばれている男はうじうじとその場に座り込んでいる。

ああ・・・。もう、ダメだ。

「男ならシャキッとしなさい!シャキッと!!」

スパーーーーンッ。

思わず耐え切れなくなった私は持っていた鞄からスリッパを取り出すとそのスリッパで勢いよく男の頭をはたいた。

「・・・いたっ。」

うん。我ながらとてもいい音がしたと思う。

男ははたかれた頭が痛かったのか、頭を押さえてうずくまってしまった。

プーちゃんとタマちゃんとマリアの目は点になっている。口はポカンッと開けているけれど。

「さっきから聞いていればグダグダグダグダと!!いい加減うざったいわ!!結局あなたは何をしたいの?ここにずっといたいの?彼女に会いに行きたいの?それとも元の世界に戻りたいの?」

グダグダ言うだけならば誰にだってできるのだ。

この男にだってできるし、今グダグダ言っている。

でも、グダグダ言ったところで何も変わらないのだ。

確かにこの男の血はあらゆる面から見ても危険なものになると思う。

だからその血をどうにかしないといけないことはわかっている。

でも、だからと言ってプーちゃんたちの力で封じてしまうとか殺してしまうとかは違うと思う。まあ、不老不死だから殺せないけど。

「私は・・・元の世界に戻りたい。そして、彼女の墓に謝りに行きたい。」

「その彼女は元の世界の人だったのね。」

「この世界に転生していた。でも、もう転生した彼女は別人だった。とても強い女性になっていた。私しか知らない。私だけしか頼れる人のいない孤独な彼女はここにはいなかった。」

「・・・そう。」

なぁ~んか、この人性格歪んでるような気がする。

こんな地下牢に閉じ込められていたからってだけではなく、元々からの性格のように思える。

「ねえ、プーちゃん。この人を元の世界に戻すことはできるの?」

『・・・はあ。我にできなことなどない!と言いたいところだが、これだけは無理なのだ。我が異世界の迷い人を呼んだのではないからな。そんなことができるのは我を作り出した神くらいなものだ。』

「えっと、神様っていうと女神(?)様のこと?」

『そうなのだ。』

『うむうむ。異世界から人を送り込むのはあやつくらいしかできぬのじゃ。まあ、待っていればそのうちあやつから接触があると思うのじゃ。こちらの思考はあやつには筒抜けだからの。』

プーちゃんとタマちゃんが頷く。

やっぱりプーちゃんを作り出した神様だけあって、とってもすごい存在のようだ。

話してみたかぎりは女装してたお兄さんって感じだったけど、意外とすごい存在だったようである。

と、いうことは、私も女神(?)様にお願いすれば元の世界に戻れるのだろうか?

以前ははぐらかされてしまったが・・・。

『あらぁ~。私の話題かしら~。』

「ぶっ!!」

『ほら、来たのだ。』

『来たのじゃ。』

女神(?)様のことを話題に出したら3分と経たないうちに女神様の声が聞こえてきた。

神出鬼没だな。この女神(?)様は。

暇なのだろうか。

『うふふ~。暇じゃないわよぉ。こう見えても、い・そ・が・し・い・の。』

ううう。

不通に喋ってくれればいいのに。

どうして、こう女性っぽさを強調した喋り方をするのだろうかこの女神(?)様は・・・。

『で、そこの貴方!元の世界に戻りたいんだって?』

「あ、ああ・・・。」

急に女神(?)様が出てくるは、急に話しかけられるはで、男は多少混乱しているようだ。

まあ、初めてあったらインパクトでかくて混乱するとは思うけどさ。

それでも、ちゃんとに頷いたところを見るとまだ正気を保っているようだ。

『ふぅ~ん。貴方死んじゃうわよ?いいのかしら?』

「え?」

元の世界に戻ったら死ぬ・・・?

どうしてなんだろうか?

男も驚いたように声を上げた。

それもそうだろう。元の世界に戻ったら彼女さんのお墓にお参りに行こうと思っていたのだから。その予定が狂ってしまうのだから。

「どうして、死んでしまうんですか?」

『あらぁ~。貴女知らなかったんだっけ~?それとも忘れてしまったのかしら~?貴女がこの世界に来たときのこと思い出せるかしら?』

「・・・ここに、来た時のこと?」

女神(?)様に言われてこの世界に来た時のことを思い出す。

あれは婚約者の裕太から一方的に婚約破棄をされて、ショックで道路をふらふらと歩いていたときだった。

前方から真っ白な光が私を照らしたのだ。

そうして、気づいたらこの世界に来ていた。

「真っ白な眩しい光が私を照らしていたわ。それが何か関係があるの?」

『ふぅ~ん。貴女はそこで記憶が途切れているのね。じゃあ、貴方は覚えているかしら?』

女神(?)様は面白くなさそうに頷くと、男に質問の対象を移した。

「私は・・・妻が亡くなって、マコトとユキを殺して、私も海から身を投げた。」

「えええっ!!!?」

男の言葉は私にとって非常に衝撃的なものだった。

マコトさんとユキさんを殺した!?

マコトとユキって言ったらあの二人しかいないよね?

ここでも二人が絡んでくるのか・・・。

しかも、その後に身投げしたとか・・・。

うう・・・。なんと言えばいいのか。

この人、本当に元の世界に戻してしまっていいのだろうか。

『覚えていたのね。じゃあ、元の世界に帰ったらどうなるかわかるわよね?』

「海に身を投げた瞬間に戻るのならば、私は死ぬ。」

『よくできました。偉いわねぇ~。そう、元の世界に戻ると貴方は死んじゃうのよ。むしろ、元の世界で死んだからこの世界に転移することができたという方がただしいかしら。』

まるで何でもないことを言うように女神(?)様はサラッと重大発言をかましてくれた。

 

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