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四章

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「・・・魔物になった異世界からの迷い人、かぁ。」

ユキさんに挨拶をして、もう一度ヤックモーン王国へ向かう。

その足取りは重い。

つっても、プーちゃんの転移魔法のお世話になるので、足取りが重いとか関係ないけれども気分的に、だ。

同じ異世界からの迷い人なのに、魔物と呼ばれるようになってしまった男のことを思うと胸が締め付けられる思いだ。

死ぬことも年を取ることも許されない異世界からの迷い人。

いったい私たちはなんなのだろうか。

なんのためにこの異世界に飛ばされて、なんのためにこの異世界で生きていかなければならないのだろうか。

『ふむ。気にすることはない。異世界からの迷い人だからと言って道を踏み外した結果にすぎない。マユがどうこう思う必要もないのだ。』

『そうじゃ。そやつはマユとは違うのだろう。マユが気にすることではないのじゃ。』

プーちゃんとタマちゃんが落ち込んでしまった私の肩を叩きながら、慰めてくれる。

「でも・・・魔物って・・・。」

『不老不死だからな。仕方がないのだ。』

「不老不死・・・かぁ。」

不老不死になりたい人なんているのだろうか。

『マユも不老不死なのー?』

マーニャが不思議そうに首を傾げて聞いてくる。

「うん。そうみたい。実感もないけれどね。」

実感は、ない。

ただ、マコトさんやユキさんを見ていてもしかしたら・・・という思いはあった。

二人とも高齢者の動きではなかったからだ。

例外的にユキさんは私が作った化粧水で見た目は年相応になったが、寿命の方はどうなるのかは私にもわからない。

『じゃあ、ミルク飲み放題なのー!』

『ずっと寝ててもいっぱい時間があるんだね!やったなのー!』

『生き急がなくてもいいのはいいことなの。のんびりすればいいのー。』

「え?」

マーニャたちが不老不死のいいところをそれぞれ上げてくれた。

っていうか、クーニャ。

ミルク飲み放題ってなに。それ。

不老不死だろうとなかろうと飲もうと思えばミルク飲み放題できるし。

まったく。

クーニャはミルクが大好きなんだから。

でも・・・。

「マーニャたちは私を置いて寿命をまっとうするのかな。」

可愛い可愛いマーニャたち。

私の娘のような存在でもあり、妹のような存在でもある。

そして時には親友のような存在にもなる。

かけがえのないマーニャたち。

そのマーニャたちと別れる日が来てしまうのだろうか。

そう思うとしんみりとしてきてしまう。

もう、マーニャたちがいない生活なんて考えられないのだ。

『マユー。プーちゃんがいるのー。』

『プーちゃんならなんでもできるのー。』

『そうなのー。心配いらないのー。』

「プーちゃん、か。そうだね。プーちゃんなら不老不死の私でも死なせることができるかな?そうすれば、マーニャとずっと一緒にいられるね。」

『違うの!そうじゃないの!!』

『マユ、死んじゃダメなのー。』

『プーちゃん、説明するのー。』

ついついナーバスになってしまって、死という言葉を口にしてしまった私をマーニャたちは叱咤した。

ペシペシと私に打ち付けられる尻尾が可愛い。

まったく痛くないし。ただ可愛いだけだし。

『我の血は不老不死を与えるのだ。ゆえにマーニャたちに飲ませればマーニャたちも不老不死となるであろう。ただ、不老不死というのは辛い。マユの言ったとおり親しい者たちとの別れは必ずくる。それに、いつまでも姿が変わらず何があっても死ぬことがない存在は他の人間からみたら脅威でしかない。差別や時には襲われたりすることもある。それを覚悟出来ぬものは不老不死になっても狂っていくだけなのだ。』

プーちゃんはどこか遠い目をしてそう告げた。

プーちゃんにもそういう経験があるのだろうか。

狂ってしまった人を見たことがあるのだろうか。

そう思わせるほど、いつもとは違う雰囲気のプーちゃんがそこにはいた。

「はいはい。暗い話はそこまでにして、さっさと片をつけに行くわよ!」

パンパンっと大きな音を立てて手を叩いたのはマリアだった。

マリアは私たちの空気を吹き飛ばすかのように、明るい声で私たちをけしかけた。

「そうね。まずは目の前の問題をクリアしていかなければね。」

私はそう思考を切り替え、魔物と呼ばれるようになってしまった異世界からの迷い人の元へ向かうことにした。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ここね。」

異世界からの迷い人が捕まっているのはヤックモーン王宮の地下牢だった。

その情報はマリアが教えてくれた。

ただ、そこにどうやって潜り込むのかが問題だったが、そこはプーちゃんの出番だ。

転移の魔法でササッと転移してしまおうという話になった。

ただ、位置情報が怪しかったので数回失敗してしまったが、私たちはタマちゃんの空間に隠れていたので誰にも見つかることはなかった。

そうして、私たちはヤックモーン王宮の地下牢にこっそりとたどり着いたのだった。

どうしてこっそりかって?

堂々と正面から乗り出せばいいじゃないかって?

それはできないだろう。

もっと時間があれば新国王様を説得することも可能だったかもしれないが、もう今日にも恩赦で外に出されてしまうような存在だったのだ。

それなのに今日になって新国王様に話を通そうにも、新国王様は即位式で忙しくて時間が取れない。

そうなったのならば、ここはもうこっそりとことを運ぶしかない。

「・・・だれだ?」

地下牢には鎖につながれておらず、ただただそこにあるだけの存在がいた。

お風呂にも入っていないのか周囲は生臭い匂いが立ち込めている。

目に生気もないようで、虚ろな目でこちらを見ていた。

『おまえを助けにきた。』

プーちゃんが開口一番にそう男に告げた。

 

 

 

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