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四章

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「うふふ~~~。にゃんこは可愛いのぉ~。ご飯食べてくれたの~。」

エーちゃんは見ているこちらもわかるくらいの嬉しそうな顔でマーニャたちを体育座りになりながら見つめている。

その顔はなんだか幸せそうで、見ているこちらまで嬉しくなってくる。

「マユ。今がチャンスじゃない?泊めてもらえるように交渉しましょう。」

「あ、そうだね。」

マリアの言う通りエーちゃんの機嫌がいい今がチャンスかもしれない。

「エーちゃん、あの・・・。ここ宿もやっているって聞いて。よかったら一晩泊めさせていただけませんか?」

私は意を決してエーちゃんに話しかける。

断られたらもう、家に帰るしかない。

まあ、家に帰ってもいいんだけど。

王太子の件があるし、できれば泊まらせて欲しい。

そう思ってエーちゃんを見ると、エーちゃんはポカンッと口を開いた。

「え、エーちゃん?」

エーちゃんはいったいどこを見ているのだろうか。

何もない虚空を見つめているような気がしたので、エーちゃんの目の前で手のひらをひらひらと振る。

「・・・反応ないね。」

「そうね。」

エーちゃんの目の前で手を振ってみたが、エーちゃんからの反応はなかった。

そんなに他人を泊めるのは嫌だったのだろうか。

心配になってきた。

「あー。そのー。ごめんね。無理にとは言わないからさ。」

思わずしどろもどろになってしまう。

エーちゃんが泣いてしまったらどうしようか・・・。

と、思っているとエーちゃんの見開かれた目からポロリと涙が零れ落ちた。

!!!!??

ど、どうしよう。

本当にエーちゃん泣いちゃった。

「ま、まりあ。エーちゃん泣いちゃった・・・。」

「そ、そうね。そんなに嫌だったのかしら。」

マリアと二人で視線を合わせて困惑してしまう。

もしかして、エーちゃん優しいから断る理由を探しているのだろうか。

『エーちゃん、一緒に寝るのー。』

『やー。クーニャがエーちゃんと一緒に寝るのー。』

『だめー。ボーニャがエーちゃんと一緒に寝るの!』

私たちが困惑していると、マーニャたちがエーちゃんの傍にとことこと近づいて行った。

そうして、そのザラついた舌でエーちゃんの手をペロッと舐める。

どうやらマーニャたちもエーちゃんのことを心配しているようだ。

って、随分マーニャたちに気に入られているな。エーちゃんは。

あれか?

これってもしかして、あれか?

「餌付けされてるわね。」

「・・・やっぱり。」

マリアの言葉にガックシと項垂れる。

そうだよね。

エーちゃんのご飯とっても美味しかったもんね。

毎日エーちゃんのご飯食べたいよね。

それが三食だったりするとなお嬉しいよね。

わかるよ、その気持ち。

とってもわかるよ。

でも、やっぱりずっと一緒にいる私よりエーちゃんの方に懐かれてしまうと、その、なんていうか。威厳が・・・。

『エーちゃん。』

『エーちゃん。』

『エーちゃん。』

マーニャたちはエーちゃんを慰めるようにエーちゃんの傍で心配そうにエーちゃんのことを見つめていた。

「・・・はっ!い、いいいいいいいいい今、私、不相応な夢を見ていたような気がするっ!!」

マーニャがスリッとエーちゃんの頬に頭を擦り付けると、エーちゃんがやっと意識を取り戻した。

マーニャ、ナイス!

不相応な夢というのはなんだろうか。

マーニャたちと一緒に寝ることかな?

『どんな夢見たのー?』

『教えてなのー?』

『どうしたのー?』

マーニャたちは興味津々にエーちゃんを見つめている。

でも、エーちゃんが意識を取り戻したことが嬉しいようで、尻尾がピーンッと上を向いている。

エーちゃん、本当に随分マーニャたちに気に入られたことで・・・。

「はわわわわっ。マユさんたちが泊ってくれるという不相応な夢を見てしまったんです。その後に、にゃんこたちと一緒に寝るっていう不相応な夢を見てしまったんです。」

「あー。それ夢じゃないから。」

よ、よかった。

どうやらエーちゃんは私たちが泊ることが嫌だったってわけじゃなかったらしい。

というか、どうやら嬉しすぎて思考がショートしたようだ。

「え!?ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ夢じゃないんですかっ!?ほ、ほほほほほほほほんとうに泊ってくださるんですかっ!?」

「う、うん。エーちゃんさえ良ければお願いしたいです。」

「ふわっ!!ふわっ!!私の夢が叶うのですねぇーーーーー!!!」

エーちゃんは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。

と、いうか夢って?

「私、夢だったんです。お友達と一緒にお話ししながら寝落ちするの。夢だったんです。」

エーちゃんはそう言ってキラキラした瞳でこちらを見てきた。

そこで、ハタと思い当たる。

エーちゃんなんか勘違いしてない?

私たちは部屋を借りに来たのに、なぜかエーちゃんと同じ部屋で寝るまでおしゃべりをしているということになっていないか・・・?

「うふふふふ~~。そうと決まれば早速用意してきますねぇ~~~。ちょっと狭いですけど、一緒に寝ましょう~~。」

エーちゃんはそう言うと小躍りするようにお店の奥に走って行ってしまった。

うん。

完全に誤解している。

部屋を借りるお願いだったのに、友達の家にお泊りすることになってる。

「まあ、いっか。」

誤解を解いたらエーちゃん泣いてしまいそうだし。

このまま誤解させたままにしておこう。

別に泊れなくなるわけじゃないし。

泊るという目的は達成できるわけだしね。

 

 

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