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三章

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宴の準備が出来た。

皇太子殿下の合図で、楽師たちが音を奏で始める。

そこに、なけなしのお金で呼んだ踊り子たちが音楽にあわせて踊りだす。

一人がソプラノの声を大地に響かせて歌いだす。

そこに、深みのあるテノールの声が混ざっていく。

静かだった呪われた大地が賑やかになっていく。

『うむうむ。良いのぉ。良いのぉ。』

タマちゃんが目を細めてその様子を満足気に見ていた。

そんなタマちゃんにおあずけしていたどら焼きを手渡す。

「どら焼きっていうんだよ。この甘味。食べてみて。」

『もちろん。食べるのじゃ。』

タマちゃんは上機嫌で目の前にあるどら焼きにパクついた。

『ほわぁあああああああ!!!』

もぐもぐごっくんとタマちゃんがどら焼きを一口飲みこめば、タマちゃんの口から感動の悲鳴が聞こえてきた。

って、目がとってもキラキラと輝いている。

『美味なのじゃ。美味なのじゃ。この世のものとは思えぬほど美味なのじゃ。』

ぴょんぴょんとタマちゃんが美味しさのあまり跳ね上がっていると、それと同調するように呪われた大地に厚くかかっていた雲がぴょんぴょんと跳ね上がって少しずつ薄くなっていく。

「え?あれ?」

『もっと食べたいのじゃ。もっと、どら焼きを食べたらダメかの?』

タマちゃんがあったという間にどら焼きを一つペロリッと食べてしまって、次を要求してくる。

どら焼きがあまりにも美味しかったのか、目をキラキラさせて期待に満ち溢れた目をしている。

こんな目を向けられたら、どら焼きをあげないわけにいかない。

私は自分の分のどら焼きをタマちゃんに差し出した。

「これも、食べていいよ。」

『おおぉ!流石はマユじゃ。うふふふふ。えへへへへへ。どら焼きは美味じゃのぉ。』

飛び跳ねながらどら焼きにパクつくタマちゃん。

呪われた大地を覆っていた雲が雲散していき、薄っすらと太陽が見え始めた。

これは、もしかして・・・。

タマちゃんの機嫌によってお天気が好転している・・・?

『タマちゃんはご機嫌だな。呪いが解けかかってるのだ。』

プーちゃんが、盃片手によってくる。

というか、プーちゃんの手に盃があると、盃が玩具のように小さく見えるから不思議だ。

「呪いが解けかかる?」

『うむ。この呪われた大地にかけられている呪いはタマちゃんの機嫌が良くなれば解けるようになっておるのだ。』

「はい?」

プーちゃんが言った内容が理解できなくて聞き返してしまう。

『タマちゃんは迂闊だからな。タマちゃんの機嫌が良くなれば、タマちゃんがかけた呪いが全て解除されるのだ。』

うむうむ。とプーちゃんは頷きながら言ってくる。

ということは、だよ。

つまり、この宴はタマちゃんに向けた宴だったということかな?

そうか、そうか。そういうことか。

まあ、ということはだよ。

タマちゃんの機嫌を良くすれば呪いが解けたってことはだよ。

なにも、別に呪われた大地で宴をあげなくてもよかったんじゃあ。

むしろ、さっさと甘味をあげて喜ばせておけばよかったような気がする。

「まあ、でも呪いが解けたならよかった。」

「そうね。」

「ほんとうに、そうかしら?」

なんにせよ、タマちゃんの機嫌がマックスになったようで、呪われた大地に日が差し込んだのだ。

この呪われた大地の呪いは解けたと思ってもいいだろう。

そう思って思わず笑顔になると、マリアも同調してくれた。

ただ、ユキさんだけが眉を寄せて浮かない表情をしている。

いったい何故だろうか。

「どういうこと、ユキさん?」

「あら、知らない?この世界に伝わる数々の伝説を・・・。」

ユキさんは首を傾げて聞いてくる。

この世界に伝わる伝説・・・?

う~ん。その辺のことあんまり詳しくないんだよなぁ。

「いっぱいありますからね。この世界の伝説は。」

と、そこにマコトさんが合流してきた。

「そう言えば、たくさんのおとぎ話があったわねぇ。」

マリアも思い出したように頷く。

「・・・でも、その伝説やらおとぎ話がどうしたの?」

まあ、世界には伝説やおとぎ話などゴロゴロ転がっているだろう。

でも、それが今回の呪われた大地の呪いを解いたことと何が関係するのだろうか。

「いっぱいあるのよねぇ。精霊王が施した呪いって。」

「ええ。確か数えきれないほどありましたね。」

ユキさんとマコトさんが遠い目をする。

私は何がなんだかわからず首を傾げる。

って、そうかっ!!

「タマちゃんがかけた呪いがすべて解けるってこと!?」

「ええ。きっと今頃、この呪われた大地と同じく呪いが解けたでしょうね。全部。」

「そうですね。きっと解けちゃいましたね。全部。」

呪いが解けたということはいいことなのではないだろうか。

それなのに、ユキさんとマコトさんの顔色がすぐれない。

横を見れば、マリアも蒼白な顔をしている。

「マユは知らないからそんな顔をしているのね。あのね、マユ。タマちゃんが悪い方向に呪ってばかりだったら、今頃、タマちゃんは精霊王ではなくて魔王と呼ばれていると思うわよ。」

「え?あ、そうか。そうだよね、悪い呪いばかりかけてたら・・・。って、えっ!!!?」

マリアから教えてもらったヒントでハッと気づく。

呪いは呪いでも悪い呪いってことじゃないってこと!?

中にはいい呪いがあったの!?もしかして、それが今いっきに全部解かれてしまった・・・?

「ええ。悪い竜を封印した、とか。疫病を封印した、とか。暑くて誰も住めなかった場所に適度に雨を降らせる呪いをかけた、とか。強い魔物が産まれにくくする呪いをかけた、とか。いろいろあるのよね、伝説。」

ユキさんがタマちゃんをジッと見つめたまま告げた。

 

 



 





かくして呪われた大地にかけられた呪いは解かれ、呪われた大地は花々が咲き乱れ鳥や蝶がのどかに舞う祝福された大地へと変貌したのだった。

 

 

第三章 おわり

 

ここまでご拝読くださりありがとうございました。

というわけで、呪われた大地の件が無事に片付きましたので、第三章完結になります。

まあ、呪いを解いたおかげで、いろいろ副産物ができちゃいましたが、それは第四章で・・・。

 

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