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三章

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「行ってきました。」

「戻りました。売ってきたんですが25600ゴーニャにしかなりませんでした。」

「お帰りなさい。そうでしたか、購入金額の100分の1にも満たない金額なんですね・・・。」

集落に戻ると、皇太子殿下がにこやかに出迎えてくれた。

ガラクタを売って得た資金を告げると、皇太子殿下の顔色は若干曇った。

っていうか、100分の1!?

ど、どれだけ予算を不要なものにつぎ込んだのだか・・・。

思わず頭を抱えてしまう私。

だけれども、当の皇太子殿下は困った顔をしながらも仕方ないと頷いていた。

この人、どれだけの公費をつぎ込んじゃったのかわかっているのだろうか。

「あれ・・・?ミルトレアちゃんは?」

ふと気づくと出迎えてくれたのは皇太子殿下のみだった。

ミルトレアちゃんの姿が見えない。

もうすぐ日が暮れるのに。

「ああ、呪われた大地に様子を見に行ったよ。」

「そうですか。でも、もう日が暮れてしまいませんか?いつもこんなに遅くまで?」

「今日はプーちゃん様を連れて行きましたからねぇ。大丈夫でしょう。」

「はあ。」

そうか。プーちゃんもミルトレアちゃんと一緒に行ったんだ。

それなら安心だね。

プーちゃんは強いから何があっても大丈夫だろう。

よほどの物でない限りプーちゃん無敵だし。

ちょっとお頭が弱いのがアレだけど。

「宴の料理と楽師については私の方で伝手がありますので、こちらで手配させていただきます。皇太子殿下におかれましては、宴に招待する集落の人数を教えていただきたいのですが・・・。」

マコトさんがそう切り出した。

皇帝陛下の名前を出さないところは配慮しているようだ。

まあ、この金額で楽師が呼べるかといったら無理なんだけどね。

そこは皇太子殿下が気づかないことを祈ろう。

「なにからなにまですみません。助かります。」

皇太子殿下はどうやら楽師を呼ぶにはいくらかかるのかということには気づかなかったようだ。

恐縮して頭を下げている。

「ああ、そうそう。この集落に猫様はいらっしゃいますか?」

すると突然マコトさんが切り出した。

いやいやいや水色の猫のことを調べるにも直球すぎないっ!?

「猫・・・ですか?」

突然切り出された話題に皇太子殿下も困惑の表情を浮かべている。

それも、そうだろう。

宴の話をしていたのに急に猫の話題だ。

私も戸惑っている。

「はい。猫様です。この集落に猫様がいらっしゃるのならば是非宴に参加してもらわなければなりません。プーちゃんは猫様が大好きですからね。猫様がいる方が宴はつつがなく進められるでしょう。」

「はあ。確かにプーちゃん様は猫がお好きでしたね。ええと・・・どこかで見た記憶があるんですが、どこだったっけかなぁ。」

皇太子殿下はマコトさんの嘘の説明に納得したようで、猫をどこかで見なかったかと記憶を探っているようです。

というか、猫が必要な宴って聞いたことないんだけど。

どうして、皇太子殿下は人を疑うということをしないのだろうか。

まあ、プーちゃんはマーニャたちが大好きだからあながち嘘とも言えないんだけどね。

「あっ!そう言えばこの寒い地方にしては珍しく水色の可愛らしい猫がいましたねぇ。」

おおっ!どうやら皇帝陛下の言っていた猫に心当たりがあるようだ。

これは期待大である。

「今、その猫様はどこですか?」

マコトさんが身を乗り出して皇太子殿下に確認する。

「んー。確か珍しいから高値で売れるとミルトレアが言い出して・・・。」

「「へっ?ミルトレアちゃんがっ!!?」」

皇太子殿下の発言に思わず驚きを隠せないマコトさんと私。

まさか、あのミルトレアちゃんが猫を売ろうだなんてそんなことを言うなんて想像ができない。

「そうですねぇ。優しいあの子にしては珍しかったですねぇ。売られてしまった猫がその先でどうなるかわからないから可哀相だと言いそうなんですけどねぇ。私もビックリしました。」

そう言って皇太子殿下は僅かに生えてきた顎の髭を撫でさすっている。

珍しい猫なんて買った人が大切にすればいいけれども、見世物にされたりはたまた研究と称して何をされるかわからないだろう。

そんなところに売るだなんて・・・。

もしかして、ミルトレアちゃんは水色の猫になにか只ならぬものを感じて、皇太子殿下の側から離そうとしたのだろうか。

ミルトレアちゃんってば意外と鋭そうだし。

「それで・・・売ってしまったんですか?」

 

 

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