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三章
3ー118
しおりを挟む「水脈がないなんて………。」
「呪われた大地ってのもあながち嘘ではないようですね。」
マコトさんが、神妙な顔をして頷いている。
それにしても、水脈がないということなんてあるのだろうか。
雨が降ったら、その水は数日をかけて大地に吸い込まれていくはず。
大地に吸収された水はどこに行ってしまったのだろうか。
『その昔、この場所には神竜が愛する娘たちがおったのじゃ。その娘たちを神竜に捧げればこの土地に住む人間は神竜の加護を得てさらに豊かに過ごすことができる。そう考えた人間どもは、娘たちを神竜に捧げるとして神竜が住む山にまだ幼い娘たちを逃げられないように袋の中に入れて置いてきたのじゃ。山に捨て置かれた娘たちは神竜に会う前に袋の中で儚くなってしまったのじゃ。なぜ、山に娘たちを酷い目に合わせたのかと怒った神竜が、この土地に住む人間に重い罰を与えたのじゃ。ゆえにこの土地には雨が降らぬ。』
パッと何もない空間から現れたタマちゃんが教えてくれた。
タマちゃんも何か思うことがあるのか、いつにもなく真剣な顔をしている。
『雨だけではないのじゃ。この地は太陽も照らさぬ。風も吹かぬ。そして虫も動物もおらぬゆえ、土は痩せておる。娘たちは神竜だけでなく、精霊たちにも愛されておったからの。精霊たちからも人間に罰を与えたのじゃ。ゆえにこの土地では、とうてい植物など育たぬよ。』
タマちゃんが呟くように告げるその内容にがくぜんとする。
それって、どうしょうもないんじゃないだろうか。
水はどこからか引いてくれば途方もない作業にはなるかもしれないが、なんとかなるかもしれない。
しかし、太陽や風はどうしょうもない。
虫や動物たちだって、わざわざ住みにくい土地に根付くはずもない。
人間がいくら足掻いたところでこの土地を作物が採れるまでにすることはむずかしいだろう。
あれ?
でも、雨も降らない土地なんだよね?
じゃあ、どうしてここの土は濡れているのだろうか?
「雨が降らないとちなのにここは濡れてるわ。何があったのか、聞き込みをする必要がありそうね。」
「そうですね。こればかりは僕の魔道具ではどうにもなりませんね。」
さすがのマコトさんの魔道具でも、なぜ雨が降ったのかまではわからないようだ。
素直に頷いてくれた。
ちなみに、タマちゃんは寒かったのか言うだけ言ったらさっさと自分の空間に引っ込んでしまった。
寒さではなく、マーニャたちの側にいたいだけかもしれないけれども。
それにしても、神竜や精霊によって罰を与えられた土地かぁ。
これは、神竜や精霊の力を借りないと作物が育つ土地にはならないのではないだろうか。
いや、力を借りるというより神竜や精霊がほんとにいるのであれば彼らに許しを請わなければならないだろう。
「近くに集落があるはずです。まずは、ここを開拓しようとしている皇太子殿下に話を聞いてみましょう。」
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