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三章

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「ていこく」と言ってからほぼ気を失うように倒れこんでしまったトンヌラさん。

これ以上は聞けないと判断をして、持ってきたお湯をちょろちょろとトンヌラさんにかける。

すると、トンヌラさんの姿は魚から人間の姿に変化した。

トンヌラさんも口を開かなければかなりな美形なのに、もったいない。

「帝国ですか・・・。やっかいですね。」

気を失ったトンヌラさんを前に、マコトさんが口許に手をあてて考え込む。

「定刻ってなんでしょうね。定刻になれば、マリアに会えるのでしょうか。定刻っていつなんだろう。トンヌラさんが起きたら詳しく聞かなきゃ。」

「帝国は隣国ですよ。このレコンティーニ王国も、ハズラットーン大帝国の属国なんです。」

「へ?帝国な方っ!?マリア国外にいるのっ!?」

「ええ。たぶん帝国と言いたかったんだと思いますよ、彼は。」

少しだけ焦ったように告げるマコトさん。

まさかのマリアまで国外だとか。

レコンティーニ王国のことすらよくわかっていないのに、国外まで探しに行くのはハードルが高いよ。

しかも、プーちゃんいないしさ。

転移できないじゃん。

うぅ。馬車で移動とか勘弁してほしいなぁ。それに、国外に行くとなると、マーニャたちの身の安全の保証がないじゃないか。

「起きたら詳しく聞いてみましょう。」

「はい。」

そういうことになった。

それからトンヌラさんの目が覚めたのは小一時間経ってからだった。

マーニャたちはまだ子猫ゆえ、すでにベッドで寝ている。マーニャたちの母親と共に。

マーニャたちは母親と一緒だからなのか、安心しきって仰向けになって大の字で眠っている。

呼吸をするたびに上下するお腹をツンツン指でつついても、まったく起きる気配がないほどに熟睡している。

そんな中、トンヌラさんが目を覚ました。

「う・・・うぅ~ん。水ぅ・・・。」

「トンヌラさん。大丈夫ですか?ほら、お水です。」

私は、トンヌラさんにコップに入った水を手渡した。

トンヌラさんはよほど喉が乾いていたのか、私が渡した水をグイッと一気にあおった。

「くぅ~!生き返るっ~!!」

水を一気に飲み干したトンヌラさんは、豪快に口許を右腕でぬぐった。

「意識も戻ったようですし、マリアさんの居場所を教えてもらえますか?」

マコトさんがにっこり笑って問いかけると、トンヌラさんは、ギギギッとマコトさんに視線を向けた。

「あっ・・・鬼・・・鬼がいる・・・。」

「誰が鬼ですか、誰が。教えてもらえますか?」

トンヌラさんがマコトさんを指差して震える声を出すが、マコトさんは笑みを深めてマリアの居場所を訪ねるばかりだ。

うぅ。マコトさん怖い。マジで。その笑顔が本当に怖いから。

「・・・はい。あの悪魔はたぶんハズラットーン大帝国にいるはずです。良識のある皇帝が病床につき、現在は皇太子が実権を握っているのですが、なにやら不穏な動きがありまして。あの悪魔は人の心が読めるからと女王様に帝国に密偵として連れていかれたはずです。実際には、キャティーニャ村で別れてしまったからわかりませんが。」

マコトさんの笑顔にやられたのか、ペラペラと喋りだすトンヌラさん。

やはり、マコトさんの方が正しかったようである。マリアが、帝国にいることがほぼ確定した。

「そうですか・・・。やっかいですね。」

ハズラットーン帝国とレコンティーニ王国はあまり良い関係ではないのだろうか。マコトさんの顔色があまり良くない。

「あの・・・ハズラットーン帝国って危険なところなんですか・・・?」

「いえ。今の皇帝は私の友人なのでよく知っていますが、良識のある方なんです。皇太子も人は良いんですが・・・。」

なんだか含みのある言葉だなぁ。

皇太子っていうぐらいなんだから、きっとまだ10代なんだよね?だから、まだ人に流されてしまって実権を握れていないとか、そういうことかな?

「ん?あれ?マコトさんの友人っ!?」

「ええ。そうですよ。いろいろと彼には振り回されました・・・。」

そう言ってマコトさんは懐かしそうに微笑む。

うん。そこはいいんだけどね。

マコトさんってば皇帝と友人とかって実はとってもすごい人だったりっ!?

っていうか、マコトさんの友人ってことは皇帝って80近いっ!?

「ってことは皇太子様は50代か60代っ!!?」

「ええ。確か62だったでしょうか。」

マコトさんが冷静に告げる。

おぉう。62歳。皇太子様は62歳でした。よくある恋愛小説なんかだと皇太子様は10代後半から20代前半が多いのに、60代とか。

夢を壊してくれるなぁ・・・。
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