336 / 584
三章
3ー103
しおりを挟む「ていこく」と言ってからほぼ気を失うように倒れこんでしまったトンヌラさん。
これ以上は聞けないと判断をして、持ってきたお湯をちょろちょろとトンヌラさんにかける。
すると、トンヌラさんの姿は魚から人間の姿に変化した。
トンヌラさんも口を開かなければかなりな美形なのに、もったいない。
「帝国ですか・・・。やっかいですね。」
気を失ったトンヌラさんを前に、マコトさんが口許に手をあてて考え込む。
「定刻ってなんでしょうね。定刻になれば、マリアに会えるのでしょうか。定刻っていつなんだろう。トンヌラさんが起きたら詳しく聞かなきゃ。」
「帝国は隣国ですよ。このレコンティーニ王国も、ハズラットーン大帝国の属国なんです。」
「へ?帝国な方っ!?マリア国外にいるのっ!?」
「ええ。たぶん帝国と言いたかったんだと思いますよ、彼は。」
少しだけ焦ったように告げるマコトさん。
まさかのマリアまで国外だとか。
レコンティーニ王国のことすらよくわかっていないのに、国外まで探しに行くのはハードルが高いよ。
しかも、プーちゃんいないしさ。
転移できないじゃん。
うぅ。馬車で移動とか勘弁してほしいなぁ。それに、国外に行くとなると、マーニャたちの身の安全の保証がないじゃないか。
「起きたら詳しく聞いてみましょう。」
「はい。」
そういうことになった。
それからトンヌラさんの目が覚めたのは小一時間経ってからだった。
マーニャたちはまだ子猫ゆえ、すでにベッドで寝ている。マーニャたちの母親と共に。
マーニャたちは母親と一緒だからなのか、安心しきって仰向けになって大の字で眠っている。
呼吸をするたびに上下するお腹をツンツン指でつついても、まったく起きる気配がないほどに熟睡している。
そんな中、トンヌラさんが目を覚ました。
「う・・・うぅ~ん。水ぅ・・・。」
「トンヌラさん。大丈夫ですか?ほら、お水です。」
私は、トンヌラさんにコップに入った水を手渡した。
トンヌラさんはよほど喉が乾いていたのか、私が渡した水をグイッと一気にあおった。
「くぅ~!生き返るっ~!!」
水を一気に飲み干したトンヌラさんは、豪快に口許を右腕でぬぐった。
「意識も戻ったようですし、マリアさんの居場所を教えてもらえますか?」
マコトさんがにっこり笑って問いかけると、トンヌラさんは、ギギギッとマコトさんに視線を向けた。
「あっ・・・鬼・・・鬼がいる・・・。」
「誰が鬼ですか、誰が。教えてもらえますか?」
トンヌラさんがマコトさんを指差して震える声を出すが、マコトさんは笑みを深めてマリアの居場所を訪ねるばかりだ。
うぅ。マコトさん怖い。マジで。その笑顔が本当に怖いから。
「・・・はい。あの悪魔はたぶんハズラットーン大帝国にいるはずです。良識のある皇帝が病床につき、現在は皇太子が実権を握っているのですが、なにやら不穏な動きがありまして。あの悪魔は人の心が読めるからと女王様に帝国に密偵として連れていかれたはずです。実際には、キャティーニャ村で別れてしまったからわかりませんが。」
マコトさんの笑顔にやられたのか、ペラペラと喋りだすトンヌラさん。
やはり、マコトさんの方が正しかったようである。マリアが、帝国にいることがほぼ確定した。
「そうですか・・・。やっかいですね。」
ハズラットーン帝国とレコンティーニ王国はあまり良い関係ではないのだろうか。マコトさんの顔色があまり良くない。
「あの・・・ハズラットーン帝国って危険なところなんですか・・・?」
「いえ。今の皇帝は私の友人なのでよく知っていますが、良識のある方なんです。皇太子も人は良いんですが・・・。」
なんだか含みのある言葉だなぁ。
皇太子っていうぐらいなんだから、きっとまだ10代なんだよね?だから、まだ人に流されてしまって実権を握れていないとか、そういうことかな?
「ん?あれ?マコトさんの友人っ!?」
「ええ。そうですよ。いろいろと彼には振り回されました・・・。」
そう言ってマコトさんは懐かしそうに微笑む。
うん。そこはいいんだけどね。
マコトさんってば皇帝と友人とかって実はとってもすごい人だったりっ!?
っていうか、マコトさんの友人ってことは皇帝って80近いっ!?
「ってことは皇太子様は50代か60代っ!!?」
「ええ。確か62だったでしょうか。」
マコトさんが冷静に告げる。
おぉう。62歳。皇太子様は62歳でした。よくある恋愛小説なんかだと皇太子様は10代後半から20代前半が多いのに、60代とか。
夢を壊してくれるなぁ・・・。
30
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界でお金を使わないといけません。
りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。
事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。
異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。
高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。
ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。
右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。
旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。
のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。
お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。
しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。
小説家になろうさんにもお邪魔しています。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる