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三章
3ー78
しおりを挟む『綺麗なのじゃ・・・。』
タマちゃんが、宝玉をジッと見つめながら呟く。
『美しいのじゃ・・・。』
タマちゃんが、うっとりとした瞳で宝玉を見つめる。
『素晴らしいのじゃ・・・。』
タマちゃんが、優しく宝玉を撫でながら呟く。
タマちゃんってばもうすっかり、プーちゃんの宝玉の虜である。
確かにまあるくてスベッとしている宝玉はさわり心地がとても良い。
しかも、ほんのり冷たいのでそれもまた良い。
綺麗で美しいというのも道理で、宝玉は透明度が高い球体だが、光の反射加減によって、七色に薄っすらと変化する。
タマちゃんが宝玉に夢中になるのも頷ける。
頷けるんだけど、マーニャが不貞腐れたように尻尾を床にバンバン打ちつけながら、伏せをした状態でタマちゃんをじぃーっと見つめている。
その目は据わっているようにも見える。
綺麗で気に入っている宝玉をプーちゃんの命だからと諦めてプーちゃんに返したのに、思いもよらぬところから宝玉を掠め取ってしまったタマちゃんが気に食わないらしい。
『むぅーーーー。』
時々可愛らしいうなり声をあげているマーニャが可愛い。
その可愛さでタマちゃんにも迫れば、きっとタマちゃん宝玉返してくれるような気がするんだけどな。
でも、マーニャとしてはプーちゃんの宝玉とプーちゃんの気持ちを受け入れるだけの覚悟はまだないらしく、迷っているようだ。
「はいはい。」
マーニャの頭をそっと撫でると、チラッと一瞬だけこちらを振り向き、またすぐにタマちゃんと宝玉をじぃっと見つめる。
『マーニャ様・・・。』
そんなマーニャの様子を複雑な思いで見つめるプーちゃん。
そんな中、ついにマーニャが動いた。
どうやらついに耐え切れなくなったらしい。
『きゃっ!!』
『返すのーーっ!』
宝玉を愛でていたタマちゃんに、マーニャが飛び掛ったのだ。
瞬間、宝玉はタマちゃんの手を離れる。
それに、マーニャが飛びついた。
『これは、プーちゃんの命なのっ!プーちゃんを大切に出来ないなら渡せないのっ!プーちゃんに返さなきゃいけないのっ!』
大事そうに、お腹に抱えながらマーニャはタマちゃんに啖呵を切った。
その目はうるうると潤んでいた。
今にも泣き出しそうなマーニャに、思わず心臓がぎゅっと掴まれる。
マーニャはマーニャなりにプーちゃんのことを考えていたんだね。
『妾はこの宝玉が気に入ったのじゃ。返せぬ。これは妾のものじゃ。』
タマちゃんは、そう言って素早くマーニャから宝玉を取り返す。
今、一瞬タマちゃんの姿が見えなかったんだけれども。
マーニャは大事にお腹に隠していた宝玉が一瞬のうちに奪われて、呆然と目を見開いている。
『マーニャの・・・。』
見開いたマーニャの目から大粒の涙が零れ落ちる。
それを見たプーちゃんはタマちゃんを睨みつけたが、プーちゃんに睨みつけられてもタマちゃんは何処吹く風だ。
『返せっ!』
プーちゃんが電光石火の速さで、タマちゃんに迫る。
タマちゃんは危機を察知して、空間移動をし、プーちゃんの背後に現れる。
『返さぬ。これは妾のものじゃ。』
『返せっ!』
クワッと大きく口を開いたプーちゃんは、火をタマちゃんに向かって放った。
しかし、タマちゃんに火が届く前にプーちゃんの放った火は掻き消えてしまう。
『キサマッ!!』
『ほほっ。怖いのぉ。』
怒りを見せるプーちゃんに、タマちゃんは不敵に笑って見せた。
タマちゃんは大事そうに宝玉を胸の前で抱える。
『大切なものはしまっておかねばな。』
そう言うと、宝玉はタマちゃんの身体に吸い込まれていった。
『なっ!?』
「えっ!?」
私とプーちゃんの驚きの声がハモる。
『妾を殺せば、この宝玉も一緒に朽ちるだろう。ほほっ。』
勝ち誇ったようなタマちゃんの笑い声が辺りに響いた。
タマちゃん・・・。やりすぎ。
マーニャがかわいそ過ぎる。
プーちゃんも呆然としちゃってるよ。
これで、タマちゃんを攻撃することができなくなってしまったし・・・。
『もぉー、タマちゃん嫌いっ!!』
『なっ!』
うるうるおめめでタマちゃんを睨んだマーニャは、一言それだけ言い放った。
すると、さっきまで勝ち誇っていたタマちゃんの顔が一変して、悲壮な表情になる。
あれ?
『妾は卵の中に戻るのじゃっ!!』
タマちゃんはそう言って、卵の中に戻ろうとするが、卵の殻はタマちゃんが孵化した衝撃で粉々に崩れてしまっていて、とても原型を留めていない。
卵の中に戻るのは無理だろう。
タマちゃんも卵の殻を見て、目を見開いた。
『う、うわぁあああんっ!!』
「へっ?」
突然タマちゃんは大きな鳴き声をあげながら何も無い空間の中に消えて行った。
タマちゃん・・・もしかして、マーニャと仲良くなりたかったのかな?
って、そう言えば、この騒動で忘れてたけどトンヌラさんはどうしたんだっけ?
ん?あれ?
いないな。
もしかして、まだ、シャワールームから出てきてない!?
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