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三章

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リュリュさんのところで、鞄を2つ購入してほくほく顔でザックさんの営む雑貨屋さんに向かう。

「こんにちはー。」

雑貨屋さんの入り口で声を張り上げて中に入ると、中からザックさんが飛び出してきた。

ザックさんの目の下には大きなクマがあった。

寝てないのだろうか。ふらふらと足取りが覚束ない。

「マリアを見ていないだろうか・・・。」

開口一番にそう言ってきた。

あ、そうか。マリアったらザックさんにも何も言わずに女王様と一緒に行ってしまったのか。

別にマリアは告げる気もなかっただろうけど。

「マリアに化粧水を勧めてから姿が見えないんだ。化粧水を受け取ってくれなかったから、紅茶に化粧水混ぜて出したのがいけなかったのだろうか。それとも、クッキーに化粧水を混ぜて焼いて差し入れしたのがいけなかったのだろうか。それとも、夜にマリアの家に忍んで食事に化粧水を混ぜたのがいけなかったのだろうか。なあ、マユさん。どれがいけなかったんだと思う?」

「全部だと思う。」

涙を目にいっぱい浮かべながら迫ってくるザックさんは怖いものがある。

しかも、言っている内容もあり得ない。もうストーカー一歩手前じゃないか。というか、ストーカー?

「全部悪い。」と断言されてガクッと力なくうなだれているザックさんだが、本当のことを言った私が悪いんじゃないと思いたい。

自業自得だと思う。

何も嫌がる化粧水を無理やり飲ませようとしなくても・・・。

絶対、誰だって嫌がるって。

マリア、絶対ザックさんのことさらに嫌いになったと思う。

高感度底辺だよ。きっと。むしろ、そこまでされたらマイナスだと思う。

「ぐっ・・・。嫌い・・・底辺・・・むしろマイナス・・・。」

あ、あれ?

気づかないうちに声に出していた?

ザックさんが胸を掻き毟ってその場に倒れこんで、力なくなにやらブツブツ呟いている。

いや、怖いから。っていうか、そこまで衝撃受けなくても・・・。

「だから言ったじゃない!お兄ちゃんはやりすぎだって!マリアお姉ちゃんに嫌われるって!」

店の奥から今度は可愛い黒い猫耳をつけている可愛い女の子がやってきた。

アンナちゃんだ。とてもよく似合っている。

アンナちゃんは、ザックさんの背中をポカポカ叩いている。

っていうか、アンナちゃんにも警告されていたのに、マリアに無理やり化粧水を飲ませようとしていたのね。

そんなに見たかったのか。猫耳に尻尾がついたマリアを・・・。

私だって見たいけど。

って!そうじゃなくて猫耳!!

アンナちゃんに猫耳がついているんだけど!!もしかして・・・。

「ザックさんアンナちゃんに化粧水無理やり飲ませたんですか?」

思わず声が低くなってしまうのは仕方ないだろう。

こんな幼女に猫耳だなんてけしからん。実にけしからん。

「いや・・・あの・・・。マリアに断られたクッキーをアンナが・・・。」

「にゃ?あ!マユさんっ・・・。」

アンナちゃんはやっと私の存在に気がついたらしくて、両手で猫耳を押さえている。

そんな姿もプリチー・・・じゃなくって!

「サイテーですね。で?ザックさんは食べなかったんですか?クッキー?」

「いや、俺まで食べると店番がいなくな・・・。」

ギロッとザックさんを睨みつける私とアンナちゃん。

どうやらアンナちゃんにも思うところがあったらしい。

「お兄ちゃん、私にクッキー食べるように勧めたよね?」

勝手にアンナちゃんがクッキーを食べたのではなく、ザックさんが勧めたらしい。

これは刑罰ものだ。犯罪だと思われる。

「いや・・・その・・・。」

「まだ残っているのかしら?クッキーに紅茶?」

「紅茶は捨てちゃったけど、クッキーは残ってるよ。持って来るね。」

アンナちゃんはそう言って「えいっ。」と手を振った。

すると、店の奥からお皿に乗ったクッキーが飛んできた。

私はそのお皿からクッキーを一枚掴み取ると、ザックさんににっこり微笑んだ。

「クッキー食べて店番したらどうかしら?アンナちゃんやマリアの気持ちが少しはわかるんじゃない?」

「そうね。お兄ちゃん、それ食べて店番してよ。」

「あ・・・あああ。」

何も言えなくなって口が開いたザックさんの口におもむろにクッキーをねじ込む。

そのまま口を塞ぐ。

「うぐぐぐぐぐ・・・。ごくっ。」

苦しくなったザックさんにはクッキーを食べることしか選択肢が残っていなかったのは言うまでもない。

 

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