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三章
3ー30
しおりを挟む「いらっしゃい。」
毛むくじゃらの大男は、そう言って私を迎え入れてくれた。
もしかしなくても、この人が大工さんかな。
「あ、あのっ。家の増築をお願いしたいんですが。」
「ああ。わかった。」
見た目に驚きながら声を発したもので、思わずどもってしまった。
だが、毛むくじゃらの大男は気にした様子もない。
「私、マユと言います。先日から村に住まわせていただいております。」
「ああ。知ってる。異世界からの迷い人。」
「あ、そうです。」
どうやらこの人も私のことは知っているようだった。
「ラース。」
「え?」
「おれの名前はラースだ。」
どうやら目の前の毛むくじゃらの大男はラースさんと言うらしい。
ふさふさの髭のせいか見た目は50代くらいに見える。
実際に何歳か知らないけど。
「で?増築って具体的には?」
このラースさんが、どうやら大工さんらしく、詳細を聞いてきた。
「部屋を一つ増やしたいのと、炬燵が置ける皆で団欒できるような部屋が欲しいんです。」
「そうか。あの家は・・・1DKだったか?」
「はい。そうです。」
ふむふむ。と、口元に手を当ててラースさんは考え込んだ。
間取りを思い出しているのか、それとも家の設計を脳内でおこなっているのか。
しばらくの沈黙の後、ラースさんは顔を上げた。
「あの家なら・・・500万ニャールドで増築可能だ。どうだ?」
500万ニャールドかぁ。まあ、化粧水を売ったお金もあるし問題ない。
それに、特別高い金額でもないだろう。
「わかりました。お願いします。前金ですか?」
「いいや。出来上がった時でいい。今日から増築を開始する。大丈夫か?」
「え?今日から!?え、ええ。大丈夫です。」
ラースさんの今日から増築するという発言に驚きである。
材料を手配したりとか人員を手配したりとかしないのだろうか。
ラースさんにも仕事があるだろうに。
「わかった。明日には完成するから、待っていろ。」
言うが早いかラースさんは部屋を出て行ってしまった。
ラースさんが出て行ってしまった部屋の中で私は一人混乱状態だ。
明日には増築が完成するってどういうことだろうか。
というか、今日から明日の増築が完了するまで私はどこで寝泊りすればいいのだろうか。
っていうか、どうかんがえても部屋を一つ作って炬燵を置ける部屋を作るってだけでも1週間はかかりそうなんですけど。
なんで、明日には完成するんだろう。
不思議でならない。
『お家広くなるのー。』
マーニャは家が広くなることにご満悦のようだ。
相変わらず可愛い猫である。
「待ってろ。」といわれたので、ラースさんを待っていたが一向に帰ってこない。
これは、どういうことだろうか。
そろそろおトイレにも行きたくなってきたし、マーニャも退屈そうにうろうろと辺りを歩き回っている。
まさか・・・、もうすでにラースさん私の家に行って作業しているとかってわけじゃないよね?
私は立ち上がり、辺りを見回す。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんかー?」
『マユ、ここなのー。』
家の中で声を張り上げるが、誰も出てこなかった。
返事をしたのはマーニャだけだった。
物騒じゃない?
他人を家に残して誰もいなくなってしまうだなんて。
誰もいないところにいてもしょうがないので、一度家に帰ってみることにした。
「へ?」
家に帰りつくと、すでにラースさんがいて増築作業をおこなっていた。
どうやら予想どおりラースさんは先に来て、仕事を始めていたようだ。
しかも、助手もおらず一人で作業をしている。
本当にこんな調子で明日には増築が完成するのだろうか。
「おう。始めさせてもらっている。今の部屋はそのままだからくつろぐといい。」
器用に木で出来た板を担ぎながらラースさんは教えてくれた。
どうやら私のベッドルームはそのまま残すらしい。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「ああ。」
ラースさんにお礼を言って、家の中に入ると、クーニャとボーニャはベッドの上で二匹で重なりあって眠っていた。
『クーニャ!ボーニャ!!』
「あ、マーニャっ!」
ぐっすり眠っているクーニャとボーニャに向かって、マーニャが飛び掛る。
気持ちよく寝ていたところを起こされたクーニャは怒り心頭だ。マーニャに向かって毛を逆立てて威嚇をし始めた。
ボーニャは頭がまわりきっていないのか、何がおこったのかわからずボーっと辺りを見回している。
『シャーーーーッ!!』
だが、マーニャは気にした様子もなく、怒っているクーニャに近寄っていった。
するとクーニャから高速猫パンチがマーニャに向かって繰り出される。
これに驚いたマーニャは、反射的によけてから外に向かって走り出した。その後を追うクーニャ。
二匹の追いかけっこを呆然と見つめるボーニャ。
うん。騒がしいけど、今日も平和な一日のようです。
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