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二章

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トンヌラさんは出された冷め切った紅茶を飲み、マーニャたちが用意してくれたフィンガーサンドイッチを一口食べた。
フィンガーサンドイッチなので普通のサンドイッチより小ぶりに出来ている2口くらいで食べられるサンドイッチだ。
今回、マーニャたちが用意してくれたのは、サーモンときゅうりが挟まっているごくごく普通のフィンガーサンドイッチだった。

「ふむ。なかなか美味しいですね。ベアトリクスさんもいかがですか?食べさせてあげますよ?」

トンヌラさんは、フィンガーサンドイッチをペロリと一つ食べると、もう一つを右手でつまみ上げ、ベアトリクスさんに差し出す。
ベアトリクスさんはやんわりとその手を断る。

「これはぁ~、トンヌラさんのぉ~ためにぃ~猫様たちがぁ~用意してくださったぁ~ものなのでぇ~トンヌラさんがぁ~食べちゃってぇ~ください~。」

「そうか。猫様からのおもてなしだったのか。それならば、全部僕が食べきらないといけないな。だが、このフィンガーサンドイッチはとても美味しい。是非、ベアトリクス嬢にも食べていただきたかったのだが。」

「でもぉ~猫様がぁ~トンヌラさんのためにぃ~用意したものなのでぇ~私がぁ~食べちゃったらぁ~罰があたりますよぉ~。」

「それも、そうか。」

トンヌラさんは、頷いて美味しそうにフィンガーサンドイッチを平らげた。
それにしても、猫様からだされたものは他の人が食べちゃいけないだなんて知らなかったよ。
しかも罰が当たるだなんて・・・。
でも、マーニャがトンヌラさんのために用意したフィンガーサンドイッチだったので何かあるのかなと思ったが、食べ終わった後のトンヌラさんを見る限りなんともなさそうである。
なぁんだ。てっきり私の変わりに失礼なことを言うトンヌラさんにマーニャたちがお仕置きをしてくれたかと思ったんだけど。どうやら違ったみたい。そうだよね。お仕置きをマーニャたちに任せてたらダメだよね。
私がちゃんと言わなきゃいけないよね。
まあ、トンヌラさんは貴族だから言うに言えないっていうのもあるけど。
トンヌラさんも黙っていればかなりの美形なのになぁ。

「とても美味しかったよ。これを用意してくれたのは、そちらの猫様かな?お名前を伺っても?」

トンヌラさんが立ち上がり、マーニャの元に向かう。
マーニャはササッと素早くベッドの下に潜り込んだ。

「ははは。とても人見知りをする猫様なんだね。それとも僕の美しさに敵わないと逃げちゃったのかな?美しいって罪だねぇ。」

トンヌラさんからナルシスト発言が飛び出した。
って、そんなに美しいんだったら裸見られたくらいでお婿にいけないとか言ってなくても選り取りみどりなんじゃないだろうか。
あの発言はいったいなんだったのか。

「さて、僕はもう行くよ。あまり遅くなると女王様に怒られてしまうからね。ああ、ベアトリクス嬢、愛しい僕の妻。仕事が終わったら迎えにくるからここにいてくださいね。」

トンヌラさんはそう言って、ベアトリクスさんの肩を両手で掴みキスをしようとしたところでボンッと煙につつまれた。

「「「えっ?」」」

ベアトリクスさんとトンヌラさんと私の三人の声がハモる。
お水もかけていないし熱湯もかけていない。
それなのに、トンヌラさんだけ煙に包まれるとはなにごとだろうか。

「きゃーーーーっ!!!」

煙が収まると、ベアトリクスさんの悲鳴が聞こえた。私は悲鳴をあげるどころかトンヌラさんの変貌ぶりに絶句をしてしまい動けなくなってしまった。
だって、誰が想像しただろうか。
トンヌラさんの姿が猫以外に変わってしまうだなんて。
それも、可愛い存在ではなくて、なんとも気持ちの悪い存在に変わってしまうだなんて。
これこそ、本当にお婿に行けなくなったと思う。
煙が収まったその先にいたのは、トンヌラさんと思わしき魚だった。
なんの魚かって言われると多分鮭なんだと思う。私、魚に詳しくないからわからないけど。多分、先ほどフィンガーサンドイッチに入っていた鮭なんだろう。その鮭に人間の手と足が生えている状態なのだ。
まだ、鮭そのものになっていれば気持ち悪さもそこまではないのだけれども、人型の手と足が生えているのはだいぶいただけない。

『女性に触るとお魚になるのー。』

『マユのことまな板って言っていじめないでなのー。』

『ベアトリクスも嫌がってるのー。』

マーニャたちがトンヌラさんから十分距離を取ってからトンヌラさんに向かって言う。
でも、多分トンヌラさんには伝わってないよ。
だってスキル多分持っていないはずだから。
トンヌラさんも目を白黒させている。未だに何がどうなったかわからないようだ。
両手を目の前に持っていって確認している。手で頭を押さえて、その質感に驚いたのか慌ててお風呂場に向かう。きっとお風呂場に鏡があることを思い出したのだろう。

「ぎゃーーーーっ!!!」

トンヌラさんが消えていったお風呂場からは悲鳴が聞こえてきた。きっと自分の変わり果てた姿にびっくりして声をあげたのだろう。
ベアトリクスさんと顔を見合わせてからお風呂場に向かう。
そこには腰を抜かしているトンヌラさんがいた。

「ねえ、マーニャ。これ元に戻るの?」

『お湯をかければ元に戻るのー。』

マーニャが意気揚々と教えてくれる。
よかった。人間に戻れるようだ。
流石にこのままだと可哀想なので人間に戻れることにホッとした。
私はお風呂場でへたり込んでいるトンヌラさんに近づくと、シャワーのノズルを捻りトンヌラさんにお湯をかけた。
って、お湯を鍋でわざわざ沸かさなくてもシャワーでよかったんじゃん。今更気がつくとは・・・。
お湯をかけると、すぐにもくもくとした湯気がトンヌラさんから上がりだした。
またお婿にいけなくなるうんぬんと騒ぎ出すと嫌なのでシャワーを出したままお風呂場から脱出する。
しばらくして「もとに戻った・・・。」という安心したようなトンヌラさんの声が聞こえてきた。

「そこのぺったんこの女。お前が猫様に命じたのか?僕がお前を相手にしなかったから僻んだのか?まったくこれだからまな板女は嫌いなんだよ・・・。ってうわっ!」

私がトンヌラさんのセリフにイラッとしたら、トンヌラさんの身体をまたしても煙が包み込んだ。
そうして、煙が収まるとまた先ほどの魚の姿に逆戻りである。
どうやら女性に触る以外にも魚化するトリガーがあるようだ。

『誰かが傷つくようなことを言うと魚になるのー。』

『なるのー。』

『性格よくなるといいねなのー。』

マーニャたちが親切に教えてくれたので、そっくりそのままトンヌラさんに告げると、トンヌラさんはガックリと項垂れてしまった。

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