223 / 584
二章
2ー104
しおりを挟むトンヌラさんは出された冷め切った紅茶を飲み、マーニャたちが用意してくれたフィンガーサンドイッチを一口食べた。
フィンガーサンドイッチなので普通のサンドイッチより小ぶりに出来ている2口くらいで食べられるサンドイッチだ。
今回、マーニャたちが用意してくれたのは、サーモンときゅうりが挟まっているごくごく普通のフィンガーサンドイッチだった。
「ふむ。なかなか美味しいですね。ベアトリクスさんもいかがですか?食べさせてあげますよ?」
トンヌラさんは、フィンガーサンドイッチをペロリと一つ食べると、もう一つを右手でつまみ上げ、ベアトリクスさんに差し出す。
ベアトリクスさんはやんわりとその手を断る。
「これはぁ~、トンヌラさんのぉ~ためにぃ~猫様たちがぁ~用意してくださったぁ~ものなのでぇ~トンヌラさんがぁ~食べちゃってぇ~ください~。」
「そうか。猫様からのおもてなしだったのか。それならば、全部僕が食べきらないといけないな。だが、このフィンガーサンドイッチはとても美味しい。是非、ベアトリクス嬢にも食べていただきたかったのだが。」
「でもぉ~猫様がぁ~トンヌラさんのためにぃ~用意したものなのでぇ~私がぁ~食べちゃったらぁ~罰があたりますよぉ~。」
「それも、そうか。」
トンヌラさんは、頷いて美味しそうにフィンガーサンドイッチを平らげた。
それにしても、猫様からだされたものは他の人が食べちゃいけないだなんて知らなかったよ。
しかも罰が当たるだなんて・・・。
でも、マーニャがトンヌラさんのために用意したフィンガーサンドイッチだったので何かあるのかなと思ったが、食べ終わった後のトンヌラさんを見る限りなんともなさそうである。
なぁんだ。てっきり私の変わりに失礼なことを言うトンヌラさんにマーニャたちがお仕置きをしてくれたかと思ったんだけど。どうやら違ったみたい。そうだよね。お仕置きをマーニャたちに任せてたらダメだよね。
私がちゃんと言わなきゃいけないよね。
まあ、トンヌラさんは貴族だから言うに言えないっていうのもあるけど。
トンヌラさんも黙っていればかなりの美形なのになぁ。
「とても美味しかったよ。これを用意してくれたのは、そちらの猫様かな?お名前を伺っても?」
トンヌラさんが立ち上がり、マーニャの元に向かう。
マーニャはササッと素早くベッドの下に潜り込んだ。
「ははは。とても人見知りをする猫様なんだね。それとも僕の美しさに敵わないと逃げちゃったのかな?美しいって罪だねぇ。」
トンヌラさんからナルシスト発言が飛び出した。
って、そんなに美しいんだったら裸見られたくらいでお婿にいけないとか言ってなくても選り取りみどりなんじゃないだろうか。
あの発言はいったいなんだったのか。
「さて、僕はもう行くよ。あまり遅くなると女王様に怒られてしまうからね。ああ、ベアトリクス嬢、愛しい僕の妻。仕事が終わったら迎えにくるからここにいてくださいね。」
トンヌラさんはそう言って、ベアトリクスさんの肩を両手で掴みキスをしようとしたところでボンッと煙につつまれた。
「「「えっ?」」」
ベアトリクスさんとトンヌラさんと私の三人の声がハモる。
お水もかけていないし熱湯もかけていない。
それなのに、トンヌラさんだけ煙に包まれるとはなにごとだろうか。
「きゃーーーーっ!!!」
煙が収まると、ベアトリクスさんの悲鳴が聞こえた。私は悲鳴をあげるどころかトンヌラさんの変貌ぶりに絶句をしてしまい動けなくなってしまった。
だって、誰が想像しただろうか。
トンヌラさんの姿が猫以外に変わってしまうだなんて。
それも、可愛い存在ではなくて、なんとも気持ちの悪い存在に変わってしまうだなんて。
これこそ、本当にお婿に行けなくなったと思う。
煙が収まったその先にいたのは、トンヌラさんと思わしき魚だった。
なんの魚かって言われると多分鮭なんだと思う。私、魚に詳しくないからわからないけど。多分、先ほどフィンガーサンドイッチに入っていた鮭なんだろう。その鮭に人間の手と足が生えている状態なのだ。
まだ、鮭そのものになっていれば気持ち悪さもそこまではないのだけれども、人型の手と足が生えているのはだいぶいただけない。
『女性に触るとお魚になるのー。』
『マユのことまな板って言っていじめないでなのー。』
『ベアトリクスも嫌がってるのー。』
マーニャたちがトンヌラさんから十分距離を取ってからトンヌラさんに向かって言う。
でも、多分トンヌラさんには伝わってないよ。
だってスキル多分持っていないはずだから。
トンヌラさんも目を白黒させている。未だに何がどうなったかわからないようだ。
両手を目の前に持っていって確認している。手で頭を押さえて、その質感に驚いたのか慌ててお風呂場に向かう。きっとお風呂場に鏡があることを思い出したのだろう。
「ぎゃーーーーっ!!!」
トンヌラさんが消えていったお風呂場からは悲鳴が聞こえてきた。きっと自分の変わり果てた姿にびっくりして声をあげたのだろう。
ベアトリクスさんと顔を見合わせてからお風呂場に向かう。
そこには腰を抜かしているトンヌラさんがいた。
「ねえ、マーニャ。これ元に戻るの?」
『お湯をかければ元に戻るのー。』
マーニャが意気揚々と教えてくれる。
よかった。人間に戻れるようだ。
流石にこのままだと可哀想なので人間に戻れることにホッとした。
私はお風呂場でへたり込んでいるトンヌラさんに近づくと、シャワーのノズルを捻りトンヌラさんにお湯をかけた。
って、お湯を鍋でわざわざ沸かさなくてもシャワーでよかったんじゃん。今更気がつくとは・・・。
お湯をかけると、すぐにもくもくとした湯気がトンヌラさんから上がりだした。
またお婿にいけなくなるうんぬんと騒ぎ出すと嫌なのでシャワーを出したままお風呂場から脱出する。
しばらくして「もとに戻った・・・。」という安心したようなトンヌラさんの声が聞こえてきた。
「そこのぺったんこの女。お前が猫様に命じたのか?僕がお前を相手にしなかったから僻んだのか?まったくこれだからまな板女は嫌いなんだよ・・・。ってうわっ!」
私がトンヌラさんのセリフにイラッとしたら、トンヌラさんの身体をまたしても煙が包み込んだ。
そうして、煙が収まるとまた先ほどの魚の姿に逆戻りである。
どうやら女性に触る以外にも魚化するトリガーがあるようだ。
『誰かが傷つくようなことを言うと魚になるのー。』
『なるのー。』
『性格よくなるといいねなのー。』
マーニャたちが親切に教えてくれたので、そっくりそのままトンヌラさんに告げると、トンヌラさんはガックリと項垂れてしまった。
34
お気に入りに追加
2,574
あなたにおすすめの小説
王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。
タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる