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二章
2ー9
しおりを挟むソフィアさんは相変わらずニコニコしている。
マリアは少しうんざりとしたような表情だ。
それもそうだろう。
人の味覚を壊してまで薬草茶を受け入れてくれる人を探したいだなんて。
「ダンさんだけじゃ駄目なんですか?」
「駄目です。だって、ダンさんは既に結婚されてましたから」
あ、そこは日本と同じ一夫一妻制なのか。安心した。
ソフィアさんにも他人の旦那を奪うようなことはしないという良識はあるようだ。
「あれ?でも今ご結婚されているんですよね?その人は薬草茶飲めたんですか?」
「いいえ。今のところ毎日一口でギブアップしてますねぇ」
そう言って、ソフィアさんはにっこりと微笑んだ。
旦那さん、薬草茶飲めないんだ。
それでも毎日一口は飲もうとしているんだ。
なんというすごい人なんだろう。
「私の薬草茶を必ず飲めるようになるっていうから結婚したんですけどねぇ。今のところ飲めないんです」
「そうなんですか」
「ええ。毎日飲んでいればそろそろ味覚が破壊されてもいいと思うんですけど・・・」
「あの・・・無理に飲ませない方がいいのでは?それか薬草茶の味をどうにかするとか?」
「いいえ。飲めるまで頑張ってもらいます。うふふっ。最近では味覚を鈍くするための薬も調合しているんですよ」
ソフィアさんは相変わらずにこにこ笑っている。
笑っているが内容は笑顔で話すようなことではないような気がする。
味覚を鈍くする薬って薬草茶を飲ませるためだけに調合していないだろうか。
そこまでして飲ませたいものなんだろうか、私にはよくわからなかった。
「さて、そろそろ化粧水ができる頃じゃない?」
ソフィアさんと私の会話をぶった切るように言ったのは未だに苦い顔をしているマリアだった。
そろそろこの話題も収束させたかったので安心した。
まだまだソフィアさんは話足りないようだったが。
しかし、ソフィアさんに付き合わされる旦那さんは大変そうだ。
それにしてもこの話題だけで三時間も時間が経つとは怖いものである。
私たちは化粧水の完成具合を確認するためにソフィアさんの工房に向かった。
工房と言ってもお店と工房が一緒になっているので、すぐに着くのだが。
すでに錬金は終わっていたようだった。
私は、まず美味しくなぁれと念じた方の錬金釜の蓋に手を当てる。
すると淡く光が放たれた。
「開けますね」
そう言って、蓋を握る手に力を入れた時だった。
ポフッ。
私の手にふわふわな猫の手が置かれ、錬金釜が一際眩い光を放った。
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