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一章
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しおりを挟む鶏が産んでくれた卵を持って家に帰り、キッチンに向かう。
マリアとの特訓の末、コンロの火の調節には慣れた。
マリアの鬼指導により、卵をなんとか割ることができるようになった。
今では成功率は50%まで上昇している。
が、未だに卵を割るのは苦手である。
少しでも力が入るとぐちゃっと潰れてしまうのだ。
マリア曰く、私がフライパンの角に卵を打ち付けてヒビを入れる際に勢いよく打ち付けすぎているというのだ。
「コンコンッと優しく打ち付けるのよ」とマリアは言うが、これが以外と難しい。
しかも、今は後ろでマリアがじぃーっと私の手元を見つめているのだ。
手が震えてしまう。
フライパンをコンロにセットして、魔力を使って火力調整をおこなう。
オイルをフライパンにいれ、十分に温まったところで卵を入れる。
「コンコンッ」と軽めにフライパンの縁に打ち付ける。
よし。ヒビがはいった。
卵のヒビに指をかけ、一息に卵を割る。
「えいっ!」
ぐしょっ。
ぺちゃっ。
ジューッ。
「・・・あれ?」
フライパンの中の目玉焼きは殻こそ入っていないものの、黄身が無残にも崩れてしまっていた。
おかしいなぁ。
「マユ、力いれすぎ。殻を割るときにぐぃっと親指に力を入れたでしょ?」
「あ、うん」
「親指に力が入りすぎてしまったから、黄身に指が入ってしまって崩れてしまったのよ」
ああ、ちゃんとした目玉焼きができるのはいつになることやら。
調理スキル持っているのになんで目玉焼きができないんだろう。
目玉焼き難しい。
黄身が崩れてしまったからスクランブルエッグにでもしようかとも思ったが、自分が食べるだけだからいいやとそのまま黄身の崩れた目玉焼きを作った。
新鮮な卵なので軽く火を通して半熟でいただこう。
お皿に目玉焼きを移すと、マリアが分けてくれた塩と胡椒を熱々の目玉焼きに振りかけてできあがり。
黄身が崩れているからあまり美味しそうではないけど・・・。
「いただきます」
目玉焼きとアンさんのパンだけの簡単な朝食。
「あら、黄身が崩れているけど美味しいわね」
「あっ!?」
食べようとした時にひょいっと横から腕が伸びてきた。
マリアが私の目玉焼きを味見したのだ。
「マリア・・・私の目玉焼き」
じとーっとマリアを見つめるがマリアは何処吹く風だ。全く動じない。
「マユの料理って不思議よね。見た目はいまいちなのに味がいいのよね?それに、魔力が込められているみたいで、魔力がみなぎってくるのよね」
「そうなの?魔力が込もってるの?」
「ええ。僅かだけどね。これは調理レベル上げたらすごいことになるかもね」
マリアはそう言ってもう一口目玉焼きを口に入れた。
いけない!マリアに目玉焼き全部食べられちゃう!
私は慌てて目玉焼きを口に掻き込む。
あ、確かに美味しい。しかも、なんだか元気になるような気がする。これが、魔力?
「まだまだマユには秘められた力があるかもね。異世界の迷い人はいつも素晴らしい力を秘めているもの。マユにもきっと素晴らしい力があるのよ
」
マリアはそう言って、にこりと笑った。
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