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 意識を集中すると、南東の方角に引っ掛かる何かを感じる。
 もしかすると、王妃殿下なのだろうか。
 確信はない。けれど、南東の方角に何かがあることは確かだ。
 
「南東の方角が気になります。距離は直線距離で100mほどでしょうか。」

 私は感じたままのことを伝える。
 
「王妃殿下かしら?」

「私ではそこまでわかりません。」

「行ってみよう。ここにいるよりも良いだろう。」

 シルキー殿下の号令で私たちはユフェライラ様を部屋に残したまま南東の方向に向かう。
 ユフェライラ様は魔法のチェーンで拘束してあるのでよほどのことがない限りは動くことができないだろう。
 南東の方角に歩いているが、不思議と誰ともすれ違うことはない。
 やはり、ユフェライラ様が衛兵たちになんらかの命令をしたのかもしれない。
 いくつもの角を曲がりながら、進んでいるとちょうど反応が真下からあった。ただ、まわりには壁があるばかりで下に続く階段などは見て取れない。部屋のドアすらない。
 
「この真下から反応があります。」

「この辺を探すぞ。」

「この先は行き止まりね。」

 反応があった場所から廊下を5mほど進んだ先には、壁があった。そこまでは部屋に続くドアもない。壁と壁に飾られた装飾品があるばかりだ。
 
「なにか、下へと続く階段が隠されているはずだ。」

 シルキー殿下はそう言って、反応があった側の壁をトントンと軽く叩いてまわる。なにやら、壁を叩くことで音が違うところがあるとそこには空間がある可能性が高いのだとか。

「あった。ここだ。」

 そう言って、シルキー殿下は廊下の突き当りの壁の前で立ち止まった。
 そこだけ音が違うらしい。
 ただ、見た目は壁があるだけでどうやって下に下りればいいのかはわからない。
 
「なにか、仕掛けがあるはずなんだが……。ユリア、王妃殿下から仕掛けについてなにか聞いていたりしないか?」

 シルキー殿下はユリアさんに聞きながらも壁に飾られている燭台や壁の近くに置かれている置物を調べている。
 
「残念ながら仕掛けがあるとしか。」

 ユリアさんは首を横に振る。
 真下から反応があるのに、下に下りるすべがわからず途方に暮れる。
 
「……外から回り込んでみてはいかがでしょうか?」

 もしかしたら外側に仕掛けがあるのではないかと思い二人に提案する。
 だが、シルキー殿下もユリアさんも首を横に振った。
 
「外はね、深い堀があるのよ。水も通っているわ。だから、外から王宮の中に入るのは難しいわ。」

「ああ。泳いで堀を渡らなければならない。」

「……そうですか。だとすると、ここになにか……。」

 ふっと何かが私を呼んだ気がした。私は呼ばれた方向を振り向くと、そこには一匹の猫がいた。
 いや、本物の猫と見紛うばかりの置物が台座にちまっと置かれていた。

「この猫の置物……。」

 私は、茶色の猫の置物に近づく。
 木彫りで出来た猫の置物は今にも動き出しそうなほどにリアルだ。



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