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「猫が迷い込んで来たようで王妃殿下に相談しようとしていたところなんです。もし飼い主がわからなければ王宮の片隅でオレ達で飼おうかと話しておりました。」

 衛兵さんは目の前にいるのがシルキー殿下とはわからないのか、不思議そうな顔をしながらも報告した。シルキー殿下の佇まいから一般人ではないことは理解しているようで、敬意は払っている。

「そうか。今から王妃殿下の元に向かうから私が連れて行こう。」

「いえ。お手を煩わせるわけには……。」

「構わない。国王陛下と王妃殿下へ会いに行くついでだ。」

 シルキー殿下は嘘か本当か王妃殿下に用事があったようだ。
 でも、シルキー殿下って猫が苦手なんだよね……?
 昨日、ブチ様のことを尋ねた時、嫌そうな表情をしていたし。
 まさか、私このまま外にぽいっと捨てられる……?

「にゃあう……。(捨てないで……。)」

 私は衛兵の腕の中からシルキー殿下の腕の中に引き渡された。
 シルキー殿下の腕の中で必死にシルキー殿下を見つめて訴えかける。
 このまま王宮の外に出されては困る、と。
 ユフェライラ様がしようとしていることを誰かに伝えなければならないのだから。

「……捨てねぇよ。」

 シルキー殿下は私が言いたいことがわかるのか、そう言って私の頭を優しくなでた。
 ……シルキー殿下は猫が嫌いなんじゃなかったのだろうか?
 不思議に思いながらも、頭を撫でるシルキー殿下の優しい手つきに思わずうっとりと目を閉じてしまう。
 だって、シルキー殿下ってば私が撫でて欲しいところがわかっているように、優しく撫でるのだもの。うっとりしないわけがない。

「にゃあっ!!(って、違うっ!うっとりしている場合じゃないわ。)」

 シルキー殿下の暖かい腕の中で目を閉じるとそのまま寝そうになってしまって、思わず首を振る。
 ユフェライラ様のことを伝えなければならないのに。

「なんだ?どうした?オレの手の中は気にくわないのか?」

「にゃぁああん。(違います。)」

「なら、どうした?」

「にゃぁんにゃんにゃん。にゃぁあああん。にゃんにゃん。にゃああん。にゃん。(ユフェライラ様が悪事を企んでいます。このままではユフェライラ様があの女と呼んでいる女性に危害をくわえるかもしれません。早くユフェライラ様を止めなければっ!)」

 シルキー殿下ならもしかしたら猫の姿のままでも言葉が伝わるかもしれないと思い懸命に訴える。

「……なにか言いたいのはわかった。あー、お腹が空いたのか?」

 だけれども、シルキー殿下には伝わっていないようで見当違いのことを聞いてきた。

「にゃあう。(違います。)」

「そっか。違うか……。眠いのか?いいぞ。オレの腕の中で寝て。」

「にゃあう。(違います。)」

「うむ。……トイレか?」

「にゃあう!(違います!)」

 「はい」か「いいえ」か、そのくらいならシルキー殿下には伝わるらしい。けれど、細かいことはシルキー殿下には伝わらないようだ。
 猫だしね。
 私、猫語しか話せてないしね。仕方ないけど。

「違うか……。参ったな。オレじゃあ、なんて言っているのか大体のことしかわからねぇ。ユリアでも居れば違うのかな。」

 シルキー殿下は頭をポリポリ掻いて眉を顰めた。
 どうやら困っているらしい。
 シルキー殿下を困らせるつもりはなかったのだけれども。

「あら……?シルキー殿下?」

 その時、救世主が表れた。

「にゃあああん!(ユリアさんっ!)」

「ユリアっ!」

 そうユリアさんが居たのだ。
 そして、シルキー殿下の顔を見ると驚いたような顔をしてから、いたずらっ子のような表情をした。

「まあ、とうとうマリアちゃんと。うふふ。」

「ちっ!ちがっ!!あれは事故でっ!!」

「うふふ。いいのよいいのよ。でも、心配したのよ。昨日帰ってこなかったから。帰ってこれないなら帰ってこれないって連絡をくれないと。」

「うっ……。」

 シルキー殿下は言葉を詰まらせた。
 それにしても、シルキー殿下は随分とユリアさんと親しそうだ。
 それに、昨日帰ってこなかったってどういうこと?
 ユリアさんとシルキー殿下は一緒に暮らしているの?
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