62 / 76
62
しおりを挟む「あ……って、ここから出してもらう前にナーガさん行っちゃったわ。」
まあ、ナーガさんにお願いしても牢から出してもらえるだけの権限がナーガさんにあるかは不明だけれども。
去っていくナーガさんの後ろ姿を見て、今更ながらにブチ様のことをお願いするだけではなく、牢から出して欲しいと訴えるべきだったと思った。
「ああ。でも心配だわ。ブチ様。やっぱり昨日見たのはブチ様だったのよ。今、どこにいるのかしら。ブチ様も捕まってないよね。大丈夫ですわよね。」
ブチ様が保護猫施設にいるかもしれないと思っていた時はまだよかった。ナーガさんの口からブチ様が昨日から帰って来ていないと聞かされてしまっては落ち着いていることなどできなかった。
ナーガさんにブチ様のことをお願いはしたものの、ナーガさんはユフェライラ様のことで頭がいっぱいになってしまったようにも見受けられたし。
やはり、ここはブチ様を自ら探しに行かないと落ち着かない。
私は牢で出してくれるのを待っているだけじゃダメなんだ。
勝手に牢を出たことで罰が増やされるかもしれないえけれど。そんなことは知ったことではない。
ブチ様が無事ならそれでいい。
ブチ様を無事に保護できたならば私はそれだけでいい。
「ここから、でなきゃ。でも、どうやって……?ブチ様のように猫だったなら、鉄格子の隙間から抜け出すことができるのに。」
私はここから出たいと強く思った。猫の姿ならでられるのに、と。
その瞬間、私の視線がガクンッと低くなった。
「にゃぅ?(えっ?)」
驚いて声を上げれば猫の鳴き声が聞こえてくる。
薄暗い牢の中を見回すと夜目が利くようになったのか、薄暗くて見えなかった壁のシミまでよく見えるようになった。
これはどうしたことだろうと、きょろきょろと辺りを見回す。すると、すぐ近くに黒い尻尾を見つけた。
猫の尻尾のようだ。
……こんなところに猫が?いつからいたの?
私は猫の尻尾の持ち主を探す。視線で追うが一緒に尻尾も動いてしまい猫自体は見つけられない。それならばと、手足を動かして尻尾を捕まえようとするが、尻尾は器用にグルグルと私と一緒にまわりだしてしまい捕まえることができない。
「にゃあ?(あれ?)」
なんだか、私の身体にピッタリと尻尾がくっついているような気がする。
そう思って私は動くのを止めた。とたんに尻尾も動き回るのを止める。
そして恐る恐る自分の手を顔の前まで持ってきてみる。
「にゃあっ!?(えええっ!?)」
目の高さまで持ち上げた自分の手は真っ黒な毛におおわれていた。しかも、可愛い黒い肉球までセットになっている。
これは、やっぱり、先ほどの尻尾は私の尻尾だったようだ。
でも、なんで急に猫に……?
猫に憑依してしまったのかしらと思って辺りを見回すが、元居た牢のままである。そして、人間である私の身体はその場にはなかった。
猫に憑依したというよりは、猫の姿になってしまったという方が正しいだろうか。
いったい、なんで?と不思議には思うが同時にチャンスだと思った。
猫の姿ならこの鉄格子をすり抜けることができるだろう。鉄格子は猫の身体だったらすり抜けるくらいの隙間が空いているのだから。
私はどうして猫の姿になってしまったのか、については考えることを止めた。そして、この場から出ることに思考を切り替える。
その時、牢の階段を誰かが降りてくるような足音が聞こえてきた。ナーガさんとはまったく違う足音だ。
私はベッドの陰に隠れる。
幸い私の姿は黒い猫の姿だった。
薄暗い中では黒猫である私の姿は目立たない。部屋の隅や物陰に隠れてしまえば見つかることはまずないだろう。このまま牢からでて階段を降りてくる人と階段で鉢合わせになったときの方が危ない。
階段には隠れられるような隙間や影はなかったはずだ。
物陰に隠れて息を殺して階段から降りてくる人物を探る。
「ふふっ。私ったらなんで気づかなかったのかしらぁ。アマリアが私の言うことを聞かないんだったらアンナライラみたいに殺してしまえばいいじゃないの。ふふっ。殺した後で仮初の魂を入れれば、お飾りの次期王妃の誕生だわ。アンナライラを造るなんて遠回りなことしなくても最初からこうしておけばよかったんだわ。」
ブツブツと呟きながら黒いドレスを纏った女性が降りてきた。
ユフェライラ様だ。
猫の聴覚は人間よりも優れていると聞いたことがあるがどうやら本当だったらしい。人間の姿の時だったら聞こえなかったユフェライラ様の小さな呟きまで私の耳には聞こえてきた。
「アマリア、待っていなさい私があなたを蘇らせてあげるわ。あの邪魔な女はアマリアのことを気に入っているようだし、私がアマリアを操ればあの女はなにも疑うことなくアマリアに殺されるでしょう。ふふふふふ。本当に最初からこうしておけばよかったわ。」
ユフェライラ様は愉快に笑いながら私の牢の前までやってきた。
「アマリア。いるのでしょう?大丈夫よ、私が無実を証明してここから出してあげるわ。」
ユフェライラ様が甘い声で私に問いかける。
私はベッドの影に隠れたまま息をひそめる。
徐々にユフェライラ様の顔が笑顔から般若のような顔になっていくのを他人ごとのように見つめていた。
「いないじゃないっ!!衛兵はなにをしていたの!まさかっ!あの女!あの女が先回りしてアマリアを牢から出したというのっ!!」
先ほどからユフェライラ様が言う「あの女」とはいったい誰のことなのだろうか。私をつかってその人を殺害したかったようだが。
気になるので物陰に隠れたままユフェライラ様の様子をジッと伺う。
だが、ユフェライラ様はこれ以上「あの女」については何も言わなかった。
思い通りにならないことに憤って、足を踏み鳴らしながら階段を上がっていく音が聞こえた。どうやら「あの女」の元に向かったようだ。
ブチ様のことも気になるが、このままではユフェライラ様が「あの女」に直接危害を加えそうだ。知っていてそれを止めなかったとなると目覚めが悪い。
私はブチ様のことを後回しにし、ユフェライラ様の後を追うことにした。
幸い猫の嗅覚は人間よりも優れているので、一度ユフェライラ様の匂いを覚えてしまえば離れてから後を追うことなど造作もなかった。
48
お気に入りに追加
2,232
あなたにおすすめの小説
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~
Rohdea
恋愛
伯爵令嬢クロエの悩みは、昔から婚約者の侯爵令息ジョバンニが女性を侍らかして浮気ばかりしていること。
何度か婚約解消を申し出るも聞き入れて貰えず、悶々とした日々を送っていた。
そんな、ある日───
「君との婚約は破棄させてもらう!」
その日行われていた王太子殿下の誕生日パーティーで、王太子殿下が婚約者に婚約破棄を告げる声を聞いた。
その瞬間、ここは乙女ゲームの世界で、殿下の側近である婚約者は攻略対象者の一人。
そして自分はこの流れでついでに婚約破棄される事になるモブ令嬢だと気付いた。
(やったわ! これで婚約破棄してもらえる!)
そう思って喜んだクロエだったけれど、何故か事態は思っていたのと違う方向に…………
婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!
杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。
しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。
対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年?
でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか?
え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!!
恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。
本編11話+番外編。
※「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】婚約破棄され処刑された私は人生をやり直す ~女狐に騙される男共を強制的に矯正してやる~
かのん
恋愛
断頭台に立つのは婚約破棄され、家族にも婚約者にも友人にも捨てられたシャルロッテは高らかに笑い声をあげた。
「私の首が飛んだ瞬間から、自分たちに未来があるとは思うなかれ……そこが始まりですわ」
シャルロッテの首が跳ねとんだ瞬間、世界は黒い闇に包まれ、時空はうねりをあげ巻き戻る。
これは、断頭台で首チョンパされたシャルロッテが、男共を矯正していくお話。
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる