59 / 76
59
しおりを挟む☆☆☆☆☆
「なぜこうも上手くことが運ばないのかしら。」
自室に戻ったユフェライラは、ソファーに寄りかかりながら大きなため息をついた。
途中まではよかったのだ。
王妃の息子である邪魔なシルキー第一王子の暗殺には失敗したが、王宮からは追い出すことができた。その間、シルキーの代わりに自分の息子であるユースフェルトが表舞台に姿を現し続けたことで、国民は第一王子であるシルキーのことを忘れ、ユースフェルトこそが第一王子であると錯覚していた。
ゆえに、第二王位継承権を保持しているユースフェルトが王位を継ぐ可能性は非常に高かった。国民たちは姿を見せぬシルキーを第一王位継承権を持つ王子だと徐々に忘れていったのだから。
そこまでは順調に進んでいたのだ。
だが、第二王子であるユースフェルトの王位の座をゆるぎないものとするためには、高位貴族との縁談が必要であった。そして出来ればその相手はユフェライラの都合の良い相手である必要があった。
ユフェライラが傀儡のように扱える高位貴族の娘であって、頭がからっぽの娘。そんな存在がユースフェルトの婚約者に必要だと思っていた。
しかしながら、ユースフェルトとつり合いの取れる年齢で、後ろ盾となる高位貴族の女性はアマリア侯爵令嬢しかいなかったのだ。
アマリアと何度か顔を合わせたことのあったユフェライラはすぐにアマリアが自分の思い通りになるような頭の軽い女性ではないことに気づいた。少し鈍いところはあるが、物事の良し悪しについてははっきりと線引きをするような女性であるとユフェライラはアマリアのことを評価した。
このままアマリアがユースフェルトの婚約者となり、アマリアが王妃になるとまずいと考えたユフェライラは、多少強引な手を使って自分の傀儡とするために殺したナンクルナーイ男爵令嬢に偽物の魂を宿して仮初の命を与えた。それこそがアンナライラである。
アンナライラを使って、ユースフェルトをアンナライラの傀儡とさせる。
ユースフェルトがアマリアと婚姻することで王位を継いだ際に、ユースフェルトをアンナライラを使ってアマリアから引きはがし、不要になったアマリアを殺害する計画であった。
だが、アンナライラはユフェライラが命令する前に、ユースフェルトに近づき、アマリアをユースフェルトの婚約者の座から退かせたのだ。
タイミングとしては最悪のタイミングであった。
ユフェライラが国を乗っ取る計画はユースフェルトを産む前から少しずつ初めていたのに、予期せぬアンナライラの動きで最悪な方向に物事は進んで行っている。
このままだとユースフェルトが王位を継げなくなる可能性は高い。
「……やはり、シルキーを亡き者にするしかないわね。」
ユフェライラは一度シルキーの暗殺に失敗している。そのため、シルキーのガードは硬い。
今までずっとシルキーがどこにいるのか隠されていたのがその証拠だ。
猫になって人間に戻れずにいると聞いた時は、放っておいて良い存在だと思っていた。だが、そのシルキーが人間の姿に戻っていた。
ユースフェルトの精神が崩壊している今の状況ではシルキーに太刀打ちができない。
それに、アンナライラとユースフェルトのゴシップのお陰で、国民の目がユースフェルトは王位に相応しくないのではないかと訴えている。そこに、シルキーが堂々と姿を現せば、国民は一気にシルキーの味方となるだろう。
元々シルキーはこの国の第一王子なのだ。
国王陛下もシルキーの産みの親である王妃もシルキーが国王となることに反対はしないだろう。それどころか諸手を振って喜ぶとしか思えない。
それを阻止するには、何が何でもシルキーの命を奪う他ないのだ。
シルキーの命さえ奪うことができるのならば、アマリアも不要な存在になる。アマリアには、ユフェライラとアンナライラ、ユースフェルトの関係が知られている可能性があり、生かしておくには大変危険な存在だとユフェライラは思っていた。
シルキーとアマリア。
ユフェライラの次なる目的は二人を亡き者にすることだった。
☆☆☆☆☆
「……困ったわね。」
シルキー殿下の訴えも虚しく私は地下牢に放り込まれた。奇しくもアンナライラ嬢が放り込まれていた牢の隣だ。
アンナライラ嬢の牢は今も現場検証のため立ち入りを規制されている。牢の鍵も私の牢の鍵とは別に保管されているそうだ。
シルキー殿下はなんとかして私を助け出すとは言っていたが、どこまで宛にしていいものか。
昨日初めてあっただけの私なんかにシルキー殿下が力を貸すとは思えなかった。
「本当に困ったわ。ブチ様が無事なのか確かめられないじゃない。シルキー殿下は力を貸してくださるそうだけど、嫌いな猫のために動いてくれるとは思えないわ。」
本当に困った。
昨日ブチ様に会ったはずなのだ。ブチ様の姿を見た瞬間に机から落ちた衝撃でブチ様の姿を見失ってしまったが。
あれはブチ様だったんじゃないかと今でも思う。
早く牢を出てブチ様を探さなければ。
保護猫施設に……ユリアさんに連絡してブチ様の無事を確かめなければ落ち着かない。ブチ様……保護猫施設に居ればいいんだけれども。
もし、いなければ王宮の中を探さなくては。そのためには、牢から出る必要がある。
ああ、昨日シルキー殿下に保護猫施設のことを告げて居ればよかった。そうすれば伝言くらいは聞いてもらえたのかもしれないのに。
そう思うと後悔してしまう。
ブチ様。どうか無事でいて。
でも、後悔してばかりはいられない。
どうやって牢から出るべきか、私は策を練り始めたのだった。
45
お気に入りに追加
2,231
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる