断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚

文字の大きさ
上 下
50 / 76

50

しおりを挟む
 石造りの階段をゆっくりと降りていく。
 カツンカツンと歩く度に音が鳴る。

「ずいぶんじめっとしているんですのね。」

 下に降りれば降りるほど、空気がよどんでいくのがわかる。

「ああ。地下だからな。風通しが悪いんだ。」

「こんなところに閉じ込められるなんて、アンナライラ嬢は大丈夫なのかしら?」

「アマリア嬢は、アンナライラに酷い扱いをされたというのに、アンナライラのことを気遣うんだな。」

 じめっとした居心地の悪い空間。
 こんなところに一週間も閉じ込められているアンナライラ嬢の体調が気になるところだ。
 アンナライラ嬢の体調のことを疑問視したら、ユースフェルト殿下にびっくりされてしまった。

「……私にしたことを謝ってほしいとは思っているわよ。でも、さすがに病気になれとか、死んでしまえばいいのに。とは思わないわ。罪は償って欲しいけれど。」

「……そうか。だが、アンナライラは、王族に対する侮辱罪と、王位を盗み取ろうとした反逆罪の嫌疑がかけられている。極刑は免れないだろう。」

「……そうなのね。」

 ユースフェルト殿下はため息とともにアンナライラ嬢の刑罰について教えてくれた。
 思った以上の罪状だった。
 たしかにアンナライラ嬢は王族を侮辱したり、反逆罪ともとることができる言動をしていた。でも実際には未遂で終わっているし……。でも、未遂で終わったから無罪放免というわけにもいかないのはわかる。

「仕方の無いことなんだよ。」

 ユースフェルト殿下は自分に言い聞かせるように呟いた。

「……っ!お母様っ!お母様、私を助けてくださいっ!!」

 しばらく階段を降りていくと、アンナライラ嬢の声と思われる甲高い声が聞こえてきた。
 必死に母親に命乞いをしているようだ。
 アンナライラ嬢は自分のしたことが理解できたのだろうか。
 それとも死にたくない一心で……?
 でも、アンナライラ嬢のお母様は、確かナンクルナーイ男爵夫人よね?孤児院で育って、ナンクルナーイ男爵家の養子になったと聞いている。
 男爵夫人に「助けて」と言ったところで刑が減軽されるわけではないはずだ。

「おだまりなさいっ!あなたは私の子ではありませんわ。あなたの所為で私の計画は破綻しました。」

 アンナライラ嬢に「お母様」と呼ばれた人物は、アンナライラ嬢を冷たく突き放したようだ。

「お母様っ!なぜですかっ!私はお母様の娘のはずです!!」

「黙れと言っているのが聞こえないの?私はあなたの母親ではありませんわ。汚らわしい子ね。どうしてそんな勘違いをなさっているのかしら?」

「私には男爵家に引き取られる前にお母様と過ごした記憶があります!」

「あなたなんて知らないわ。」

「私はあなたの娘です。助けてください!」

「うるさいと言っているでしょう。そうね……確かにあなたを作ったのは私よ。それは認めるわ。でも、あなたには自我がないはずだったのよ。勝手に自我なんか芽生えて……。あなたの所為で計画が破綻したんだから。」

 ……漏れ聞こえてくる声は誰の物?
 ナンクルナーイ男爵夫人ではないの?
 アンナライラ嬢の本当の母親?それは、だぁれ?
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

処理中です...