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「アマリア嬢……。久しぶりだな。」

 アンナライラ嬢が王城の牢に捕らえられているとユリアさんに聞いたので私は王城にやってきた。衛兵にアンナライラ嬢と面会をしにきたと告げると、衛兵は露骨に顔を歪めたあと何故だかユースフェリア殿下を連れてやってきた。

「ユースフェリア殿下。お久しぶりでございます。」

 相手は私に酷い言いがかりをつけ、学園から私を追放させようとしてきた相手だが、彼はこの国の第二王子なのだ。礼を欠くわけにはいかない。
 嫌だけど、ぐっと我慢をしてユースフェリア殿下に最敬礼をする。
 ユースフェリア殿下はばつが悪そうに「気楽にしてくれ。」と言った。今までにない心遣いだ。
 アンナライラ嬢が捕らえられたことで改心したのだろうか。

「……すまなかったな。」

 ユースフェリア殿下は小さな声だが私に謝ってきた。
 王子殿下ともあろうお人が……簡単に謝ることを許されない人が私に謝罪をしていることに驚いた。

「ユースフェリア殿下。アンナライラ嬢はどこに……?」

「……ああ。彼女は地下牢に捕らわれている。私も何度か彼女には会ったのだが……正気を失ったようにシルキー兄上の名を呼び続けている。」

 ユースフェリア殿下は視線を下に下げて低く告げる。
 彼もとても辛い思いをしているのだろう。
 よく見れば目の下には大きな隈ができているのがわかる。
 きっと、アンナライラ嬢のことが心配で寝ていないのだろう。

「……そうですか。」

「会っていくのか?正直、アマリア嬢の顔を見たら激昂するんじゃないかと心配しているんだ。」

 ユースフェリア殿下は、アンナライラ嬢のことを心配して私をアンナライラ嬢に会わせたくないようだ。どこまでもお優しいユースフェリア殿下である。

「……そうですね。私が行くとアンナライラ嬢を怒らせてしまうかもしれません。」

 私が怒ったように言ってみると、ユースフェリア殿下は珍しく慌てだした。

「違うっ!違うんだ。アンナライラ嬢のことを心配しているのではない。アマリア嬢がアンナライラ嬢に傷つけられる可能性があるから言っているんだ。アンナライラ嬢は以前のように優しい彼女ではないんだ。」

 どうやらユースフェリア殿下はアンナライラ嬢ではなく、私のことを心配してくれたらしい。珍しいことだ。
 ああ、でも、アンナライラ嬢に出会う前のユースフェリア殿下はとても心優しい少年だったことを思い出す。男の子には珍しく花や小鳥が大好きで可愛がっていた思い出がよみがえる。

「……私はアンナライラ嬢に優しくされたことはありませんが?」

「そう……だったか。ああ……そうであったな。思えばアマリア嬢の前ではいつもアンナライラ嬢は怒っているか泣いているかだった。そうか……そうであったな。すまなかった。」

 ユースフェリア殿下はどこまでも優しかった。理由がどうであれ泣いている人の方をいつもかばっていたことを思い出す。泣いている方の人の言い分しかいつも聞いていなかった。
 ユースフェリア殿下はとても反省しているように見えた。その声と表情には深い後悔がうかがい知れた。

「もう過ぎたことです。」

「そうか……本当にすまなかった。国王様にも王妃様にも言われたよ。私は未熟だと。物事の本質を見ていないと。確かにその通りだった。」

 どうやらユースフェリア殿下は、相当国王陛下と王妃殿下に搾られたようだ。

「……それよりも、アンナライラ嬢の元へ連れて行っていただけますか?」

 これ以上、ユースフェリア殿下の謝罪を聞いていても仕方が無い。私は許すことができないのだから。

「……ああ。今、私の母上がアンナライラ嬢の元に向かった。今行くと鉢合わせになるかもしれないが……。」

 そこで私はユースフェリア殿下が来たことに、納得がいった。ユースフェリア殿下の母上である側妃様がアンナライラ嬢に会いに行っているから、彼女の息子であるユースフェリア殿下がやってきたのだと。

「私は別に構いませんが、ユフェライラ様の気にさわりますでしょうか。」

「いや。大丈夫だとは思う。母上がアンナライラ嬢の元へ行ってからもう半時が経った。もう、母上も帰るころだろう。」

「そうですか。では、案内していただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ……。」

 私は酷く落ち込んでいるユースフェリア殿下とアンナライラ嬢がいる地下牢へと階段を降りていくのだった。
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