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「うふふ。ブチ様。」

 腕の中のブチ様はとっても大人しい。いつもは触らせてくれないのに、ユリアさんの魔法のおかげか触り放題だ。嬉しくなってブチ様を撫でまわす。
 
「グルルルルルル……。」

 ブチ様は自由にならない身体で私を睨みつけて低い唸り声をあげる。
 
 私は、ブチ様がとても嫌がっていることに気づき、撫でるのを止めてそっとベッドに寝かせた。
 
「ごめんなさい。ブチ様。ブチ様は触られるのは嫌でしたよね。それなのに、魔法で自由が効かないからと、触りまくってしまってごめんなさい。」

 欲望には勝てず触り倒してしまったが、これはブチ様に嫌われる行為に等しい。ブチ様は私が触れることを許していないのだから。
 
「グルルルル……。」

 ブチ様は私を睨みつけてくる。それからフイッと視線を逸らせた。
 
「ブチ様。許してくださるのですねっ!なんてお優しいのかしら。ありがとうございます。ブチ様。」

 猫が目を逸らすのは相手と喧嘩をしたくないから。つまり、ブチ様は私と喧嘩をする気がないということ。つまり、私のことを許してくれたのだろう。
 
 私は嬉しくなってブチ様の頭を撫でた。
 
「グルルルル……。」

 再び低い唸り声がブチ様から聞こえてくる。そして、私をジッと見つめる黒い瞳。
 
「あ、申し訳ございません。ブチ様。つい、反射的に……。」

 私に撫でられたことが気に入らなかったらしい。そうだよね。先ほどまで触るなと言っていたのだから。
 
 でも、これではブチ様をお風呂に入れることができない。
 
「……ユリアさん。私はブチ様の嫌がることをして、これ以上ブチ様に嫌われたくありません。ブチ様は私に触られるのがとっても嫌みたいなんです。ましてや私の手でシャワーを浴びるなんてきっとブチ様は許してはくださらないでしょう。」

 私はユリアさんに懇願する。
 
 これ以上ブチ様に嫌われるようなことはしたくないと。
 
 でも、汚れているブチ様を洗わなくてはならないのは事実だ。
 
「大丈夫よ。マリアちゃん。ブチはあなたのことを引っかかいたり、噛みついたりしないから。だから隅々まで洗ってあげて。」

「それは……確かにブチ様には魔法がかかっているから私のことを引っかいたり、噛みついたりはしないとは思いますが、でも、ブチ様のトラウマになりませんか?」

「大丈夫よ。むしろ一緒にシャワーが浴びれてとっても嬉しいんじゃないかしら。ブチはちょっと恥ずかしがり屋なだけなのよ。」

「ですが……。」

「マリアちゃん。」

 ブチ様を洗うことを戸惑っていると、ユリアさんがにっこりと笑って私の名を呼んだ。

「は、はいっ。」

 ユリアさんの目は全く笑っていない。私は背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
 
「ブチは猫なのよ。一人で身体は洗えないの。ね?お願いできるわよね?ブチも、マリアちゃんに触られたと言っても起こらないこと。ブチがいけないのよ。勝手にお外に行くから。」

「は、はいいぃぃ。」

「にゃぁう。」

 ブチ様は不貞腐れたように一声鳴いた。
 
 これはもうブチ様を洗うしかないパターンだ。私は嬉しいけど。ブチ様を洗うと同時に堪能させてもらおう。
 
 私はそう決心した。

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