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しおりを挟む「どちらさまでしょう?」
固まってしまった私の代わりにユリアさんが保護猫施設の入り口に向かって歩いて行った。
「シルキーを迎えに来たわ。」
私はユリアさんの後ろからそっと外を伺う。
聞いたことのある声だと思ったけれど、姿を見て確信した。やっぱりアンナライラ様だ。
「……申し訳ございませんが、シルキーは今はまだ里子に出せる状況ではございません。お引き取りください。」
「そんなことないわ!先週までは乗り気だったじゃない!なんでダメなのかしら!!」
アンナライラ様は声を荒げてユリアさんに詰め寄る。
ユリアさんはアンナライラ様を睨みつける。
「そのくっさい香水の匂いをまき散らして可愛い可愛いうちの子を引き取るだなんて言わないでくださいませ。うちの可愛い子たちの里親になる条件として香水はつけない、もしくは最低限にというお願いごとがございます。それを守れない人にはうちの可愛い猫は里子に出すことはできません。お引き取りください。」
「なんでよ!香水は貴族のたしなみよ!それにこの香水はユースフェルト様がくださったとっても高貴な匂いの香水よ!あなたユースフェルト様のことを悪く言うつもりかしら?」
「……猫は匂いに敏感な動物です。そのようにキツい香水の匂いをまき散らしていたら猫はあなたから逃げることでしょう。」
「あら。この香水が不快な匂いだとでも言うの?」
「……少量であればとても高貴な香りでしょう。でも、あなた様は香水をつけすぎている。人間でもあなた様には近寄りたくないほどの酷い匂いですわ。さあ、お引き取りください。」
ユリアさんはバッサリと言い捨てた。
確かにアンナライラ様はいつも香水の匂いをまき散らしていた。その下品な香水の使い方も実はアンナライラ様に人が近寄らない原因でもあった。
まあ、ユースフェルト殿下は最初は眉を顰めていたが近くにいる内に香水の匂いに慣れてしまったのか、鼻が馬鹿になったのか何も言わなくなったみたいだが。
もとより香水というものは体臭を誤魔化すために開発されたものである。おしゃれとしてつけるのであれば、近寄った時にほんのり香るくらいにすべきだ。香水の匂いがキツいくらいにつけているのは自分は体臭がキツイですと言っているようでもある。
「そんなことはないわっ!!シルキーは絶対この匂いを気に入るわ!早くシルキーを連れてきなさいっ!!」
「いえ、お帰りください。そのような匂いでこられたら迷惑です。健康で元気な猫たちも具合が悪くなってしまいますわ。どうぞ、お帰りくださいませ。」
「あなた平民でしょ?私は男爵令嬢よ!そして未来の王妃なの。だから私の言うことを聞きなさい!!」
アンナライラは声を張り上げる。
「……お帰りくださいませ。どうしてもこの保護猫施設に入ってシルキーに会いたいというのなら、国王陛下と王妃様の許可を得てきてください。この保護猫施設の管理者は国王陛下と王妃様です。そのお二人の許可を得ることができたらシルキーに会っていただいても構いません。」
ユリアさんは怒っているアンナライラに構うことなく冷静に告げる。
私はこの時初めてこの保護猫施設が国王陛下と王妃様が管理者になっていることを知った。
「わかったわよ!王様と王妃様に許可をとってくるわ!覚悟なさいっ!!」
アンナライラはそう言うと踵を返して走り去っていった。
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