22 / 76
22
しおりを挟む「どちらさまでしょう?」
固まってしまった私の代わりにユリアさんが保護猫施設の入り口に向かって歩いて行った。
「シルキーを迎えに来たわ。」
私はユリアさんの後ろからそっと外を伺う。
聞いたことのある声だと思ったけれど、姿を見て確信した。やっぱりアンナライラ様だ。
「……申し訳ございませんが、シルキーは今はまだ里子に出せる状況ではございません。お引き取りください。」
「そんなことないわ!先週までは乗り気だったじゃない!なんでダメなのかしら!!」
アンナライラ様は声を荒げてユリアさんに詰め寄る。
ユリアさんはアンナライラ様を睨みつける。
「そのくっさい香水の匂いをまき散らして可愛い可愛いうちの子を引き取るだなんて言わないでくださいませ。うちの可愛い子たちの里親になる条件として香水はつけない、もしくは最低限にというお願いごとがございます。それを守れない人にはうちの可愛い猫は里子に出すことはできません。お引き取りください。」
「なんでよ!香水は貴族のたしなみよ!それにこの香水はユースフェルト様がくださったとっても高貴な匂いの香水よ!あなたユースフェルト様のことを悪く言うつもりかしら?」
「……猫は匂いに敏感な動物です。そのようにキツい香水の匂いをまき散らしていたら猫はあなたから逃げることでしょう。」
「あら。この香水が不快な匂いだとでも言うの?」
「……少量であればとても高貴な香りでしょう。でも、あなた様は香水をつけすぎている。人間でもあなた様には近寄りたくないほどの酷い匂いですわ。さあ、お引き取りください。」
ユリアさんはバッサリと言い捨てた。
確かにアンナライラ様はいつも香水の匂いをまき散らしていた。その下品な香水の使い方も実はアンナライラ様に人が近寄らない原因でもあった。
まあ、ユースフェルト殿下は最初は眉を顰めていたが近くにいる内に香水の匂いに慣れてしまったのか、鼻が馬鹿になったのか何も言わなくなったみたいだが。
もとより香水というものは体臭を誤魔化すために開発されたものである。おしゃれとしてつけるのであれば、近寄った時にほんのり香るくらいにすべきだ。香水の匂いがキツいくらいにつけているのは自分は体臭がキツイですと言っているようでもある。
「そんなことはないわっ!!シルキーは絶対この匂いを気に入るわ!早くシルキーを連れてきなさいっ!!」
「いえ、お帰りください。そのような匂いでこられたら迷惑です。健康で元気な猫たちも具合が悪くなってしまいますわ。どうぞ、お帰りくださいませ。」
「あなた平民でしょ?私は男爵令嬢よ!そして未来の王妃なの。だから私の言うことを聞きなさい!!」
アンナライラは声を張り上げる。
「……お帰りくださいませ。どうしてもこの保護猫施設に入ってシルキーに会いたいというのなら、国王陛下と王妃様の許可を得てきてください。この保護猫施設の管理者は国王陛下と王妃様です。そのお二人の許可を得ることができたらシルキーに会っていただいても構いません。」
ユリアさんは怒っているアンナライラに構うことなく冷静に告げる。
私はこの時初めてこの保護猫施設が国王陛下と王妃様が管理者になっていることを知った。
「わかったわよ!王様と王妃様に許可をとってくるわ!覚悟なさいっ!!」
アンナライラはそう言うと踵を返して走り去っていった。
69
お気に入りに追加
2,268
あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。

わたしがお屋敷を去った結果
柚木ゆず
恋愛
両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。
――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。
――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。
関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。
17日本編完結。後日それぞれの10年後を描く番外編の投稿を予定しております。
体調不良により、現在感想欄を閉じております(現在感想へのお礼を表示するために、一時的に開放しております)。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる