断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚

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「あっ、シルキー様。ご機嫌いかがでしょうか?健康チェックは問題なかったのでしょうか?」

 ナーガさんがいなくなってからしばらくして、ユリアさんに抱きかかえられてシルキー様が奥から姿を現した。
 
「ふふふっ。マリアちゃんは本当にシルキーのことが好きね。大丈夫よ。シルキーは健康そのものよ。」

 ユリアさんはにっこり笑いながら私にシルキー様を手渡してきた。
 
 私はシルキ様ーのふわふわな身体をギュッと抱きしめる。
 
「シルキー様ぁ。私はシルキー様には幸せになってもらいたいのです。シルキー様にナンクルナーイ男爵令嬢とのご縁があったようですが、申し訳ございません。私は彼女のことがどうにも気にかかるのです。シルキー様を家族に迎えたいというのが私に対する当てつけのように感じられて……。シルキー様が幸せに暮らせるようにナーガさんが調べてくださるようですので、トライアルまでもうしばらくお待ちください。」

 私は健康チェックを受けて疲れてぐったりしているシルキー様に頬ずりしながら告げる。
 
「ああ。幸せ。私はシルキー様の体温をこの身に感じられて幸せですわっ!」

「ふふふっ。ほんとマリアちゃんって面白いわよねぇ。」

 ユリアさんはそう言ってシルキー様と戯れる私を微笑ましそうに見つめていた。
 
 
 


☆☆☆☆☆

「シルキーが狙われているだと?」

「はい。陛下。ナンクルナーイ男爵令嬢がシルキーを迎え入れたいと言ってきました。シルキーに会う前からシルキーの容姿と名前をぴったりと当てて指定してきましたわ。」

 王宮の一室で国王陛下と美しい女性が向かい合って話し合っている。
 
 内容はシルキーのことについてだ。
 
「ナンクルナーイ男爵令嬢か……。たしか、ユースフェリアにも近づいてアマリア侯爵令嬢との婚約破棄の原因になったと聞いたが、そのナンクルナーイ男爵令嬢で間違いないか?」

 国王陛下は確かめるように女性に尋ねる。
 
「はい。間違いございません。アマリア侯爵令嬢からもそのように聞いております。」

「……そうか。」

 国王陛下は頷くとゆっくりと目を伏せた。

「……その分だと、ナンクルナーイ男爵令嬢は第一王子であるシルキーが猫の姿であると知っているようだな。」

「ええ。そのようですわ。」

「ふむ。だが、シルキーがどの猫かまでは把握しきれていないようだな。ユリアの機転が利いたようだな。」

「はい。本当に。ユリアはとても頭の良い女性で頼りになりますわ。私とシルキーにはなくてはならない女性ですわ。」

 女性はにっこりと笑った。

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