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「モモ様……私を癒やしてくださいませっ。」

 私は学園からまっすぐと保護猫施設に足を運んだ。

 保護猫施設に入ってすぐに目に入ったのはモモ様だった。可愛らしい前足でちょこんと私の手に触れる。それだけでもう私にとっては癒やしだ。

 可愛らしいモモ様をそっと抱き上げて暖かい身体に顔を埋める。

「すーはー……すーはー……。」

 モモ様の匂いを確かめるようにふわふわな毛の海に顔を埋めて深呼吸を繰り返す。

「あら。また何かあったのかしら?」

 私がモモ様に癒やしてもらっていると、ユリアさんが私に声をかけてきた。この時間に私がいるのが珍しいので、すぐに何かあったのだと感じたようだ。

「あ、おはようございます。」

「おはよう。目が真っ赤よ?泣いたの?……マリアちゃんを泣かせるなんて許せないわね。」

 ユリアさんは眉を顰める。

「あ……学園を追い出されてしまって……。そんなに学園生活に未練はなかったですが、やはりちょっと……。」

 学園に未練はない。親しい友達もいなかったし。でも、誰も味方してくれなかったのは少し辛かった。相手がユースフェリア王子だったから誰も味方してくれなかったのだとは思っているけれど。

「そう……。それは大変だったわね。でも、あなたにはここがあるわ。ここにはたくさんの出会いがあるわ。マリアちゃんに相応しい出会いも学園ではなく、きっとここにあるわ。」

「……ありがとうございます。」

 ユリアさんはどこか独特な言い回しをする。確かにここにはたくさんの猫様との出会いがある。どの猫様との出会いも貴重で大切なものだ。

「そうそう。今日は珍しくナーガ様がいらっしゃるわ。学園から追い出されてしまったこと、ナーガ様にもお話なさい。きっとナーガ様がなんとかしてくださるから。」

「まあ。ナーガさんが……。泣いてられないですね。」

 ナーガさんはこの保護猫施設の長であり、開設者でもある。行動力も発言力も大きい方だと聞いている。そして、お母様のように優しく暖かく私を包み込んでくれるような方でもある。

「……ナーガ様は泣きはらしたマリアちゃんも可愛いといいかねないけれどね。」

 私がユリアさんと話していると、モモ様がそろそろ降ろしてと手足をばたつかせて催促してくる。モモ様は長い間だっこされていることが苦手なのだ。

「あ、ごめんね。今降ろしてあげるからね。」

 私はモモ様をゆっくりと床に降ろすと、モモ様の頭を優しく撫でた。

「にゃあ。」

 モモ様は一声だけ鳴くと、そそくさと部屋の奥に向かっていった。

「……にゃあ。」

 モモ様と入れ替わりに珍しくブチ様がそばにやってくる。本当に珍しい。ブチ様の方から触れられる距離までやってくるとは。

「ブチ様……。私は嬉しくなって目がうるうるとしてきてしまう。」

 ブチ様は私に近づいてくるが、目前でふいっとそっぽを向く。そして、長い尻尾で私の足をぱしぱしとゆっくり叩く。

 そんなブチ様の姿がなんだか私を慰めているように感じて私は耐えきれずに涙を溢してしまった。

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