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「……おい、こら。もうすぐ夜が明けるぞ。」

 美味しいご飯を食べて、美味しいミルクを飲んでそのままカウンター席のテーブルで丸まって寝てしまった私は、不機嫌そうな男性の声で目を覚ました。

「はっ!?」

 「夜明け」という言葉にカルシファーとの約束が思い出されて勢いよく飛び起きた。
 美味しいご飯と、美味しいミルクでお腹がいっぱいになってしまった私はどうやらぐっすりと眠ってしまっていたようだ。
 キョロキョロと辺りを見回すと、うっとりと私のことを見ているフォン宰相と視線があった。
 
「おや、起きたのかい?寝ている君もとても可愛くて思わず見とれてしまっていたよ。どうだい?もし、君のお家が決まっていないようなら、これから私の家で過ごすというのは?きっと妻も君のことなら大歓迎で迎えてくれるだろう。」

 先ほど私に夜明けだと教えてくれたのは誰だったのか。
 カルシファーの声だったような気がするが辺りを見回してみてもカルシファーの姿は見えない。
 私はカウンター席からピョンッと飛び降りるとお店の出口に向かって走り出す。
 
「おっと。お外に出たいのかい?私の提案は受け入れがたいということかな?もしかして、君の飼い主は決まっているのかい?」

 フォン宰相はお店のドアをゆっくりと開けてくれた。
 夜はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。まだ太陽は昇っていないようだが空が薄っすらと日の光によって白くなってきていた。
 夜明けは近い。
 カルシファーとの約束を破って危うく泡になってしまうところだった。
 店から出たはいいけれど、路地裏に迷い込んでいたことを思い出した。どこをどういけば、カルシファーの元に辿り着けるのかがわからない私は、お店の前で途方に暮れてしまった。
 
「ああ、迷子なんだね。ちょっと待ってて送っていくから。」

 そう言うとフォン宰相は一度、店の中に戻って食事代の会計を済ませた。
 
「待たせたね。君は王宮から私の後をつけてきたんだよね?私は君の飼い主に似ていたのかい?王宮まで戻れば君の帰り道がわかるだろうか。それとも、王宮で私の後をつけてきたときは既に迷子になっていたのかな?」

 フォン宰相は優しく私を抱き上げるとそう尋ねてきた。
 私はどう答えたものかと首を傾げる。
 カルシファーは王宮にはいない。街外れにいるはずなのだ。だから、王宮に戻ってしまうと遠回りになってしまう。
 ここからなら、王宮に一度戻るよりも直接カルシファーの待っている場所まで行った方が早いはずなのだ。それに、空も白みがかっている。もうすぐ夜が明ける。王宮まで戻っている余分な時間はないのだ。
 
「……わからないんだね。じゃあ、君の飼い主が見つかるまで一緒にいようか。」

 そう言ってフォン宰相は歩いて行く。
 どこに向かっているのだろうか。フォン宰相の家か、それとも王宮か。
 フォン宰相が向かう先がわからないから、私は知っている道に出たらフォン宰相に訴えかけることにした。
 しばらくして、大通りに出た。
 この道は知っている。
 やはり、王宮に行くよりもカルシファーの元へ直接向かった方が早い。
 私はしっかりと抱きしめているフォン宰相の腕の中で思いっきり暴れた。
 
「おっとっと。そんなに暴れたら危ないよ?それとも、君の飼い主の姿が見えたのかい?」

 フォン宰相は腕の中で暴れる私を優しく地面に降ろしてくれた。
 私はフォン宰相のことを振返る。
 そして一言、「ありがとう」とフォン宰相に向けて感謝の言葉を述べた。
 
「どういたしまして。君の飼い主が見つかったのなら嬉しいよ。気をつけて帰るんだよ。」

 そう言ってフォン宰相はどこまでも優しい視線で私を見送ってくれた。
 私は、フォン宰相に別れを告げて、カルシファーの元へ急ぐために駆け出した。
 
 ドスンっ。
 
 すると、何かに勢いよくぶつかってしまった。
 ひょいっと軽々しく抱き上げられる身体。
 一瞬誰だと身構えるが、よく知っている匂いを感じて身を委ねた。
 
「遅かったじゃないか。」

「カルシファー。迎えに来てくれたの?」

「ふん。お前が約束を破るんじゃないかと見に来ただけだ。」

「……ありがとう。」

 なんにせよ、夜明け前にカルシファーに無事に会うことができたため私は泡になるのを免れることができた。
 私はホッと胸を撫でおろした。



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