上 下
21 / 29

21

しおりを挟む



「……ここまでくればもう逃げられないだろう。私のことを王宮からずっと追ってきているのは何故だね?」

 フォン宰相の後を追っていた私の方を急にフォン宰相が振り返る。
 ばっちり合ってしまった視線。
 罰が悪くなり私は視線をそっと逸らした。
 
「……誰もいない、か?私の気のせいだったのか……?」

 フォン宰相は私と目があったように見えたが、私がつけてきていたということは気が付かなかったらしい。
 そもそも私のことを認識していないようだ。
 確かに容姿はカルシファーの魔法で変えているけれど、認識阻害の魔法はかかっていないはずだ。
 不思議に思って首を傾げる。
 フォン宰相に見つかった時には焦ったが、フォン宰相が私に気づいて詰めていた息を吐きだす。

「……お前、逃げないのな?」

 えっ!?
 私に気づかなかったんじゃなかったのっ!!?
 もしかして、気づかないふりをしていただけ?
 
 気を抜いていただけに、フォン宰相が私に近寄ってきて声をかけてきたことに驚いて思わずびくりと飛び上がった。
 私に安心させておいて、不意をつく算段だったらしい。
 さすが腐ってもこの国の宰相である。
 私は観念して目を閉じた。
 
「悪い悪い。君を怖がらせるつもりはなかったんだ。王宮からずっと私の後を追ってきていたのは君だね?迷子になって心細かったのかい?」

 フォン宰相がしゃがんで私に話しかける。
 その声からは緊迫した様子も見えない。逆に私のことを怖がらせないように配慮しているようにも思えた。
 私のことを魔族の花嫁として追い出し、皇太子妃の座にアリス様をつけようとしていたのに、なぜ?と首を傾げる。
 
「お腹が空いているのかい?こんなところまで追ってきて。残念だが、私は君が食べれるようなものを何も持っていないんだ。でも、ここまでついてきてくれたのに、なにもあげないなんてことはしないよ。君の好物はなんだい?」

 なんか、フォン宰相が私を手名付けようとしているような気がする。
 どうして、こんなにも私のことを気にかけてくださるのだあろうか。
 混乱で頭の中は疑問符がいっぱいになる。
 
「ははっ。そうだったね。私の言葉はわからないよね。じゃあ、こうしよう。私が君を抱っこして店に向かうから、そこで好きな物を指し示すといい。君の欲しいものを買ってあげるよ。」

 私、もしかしてフォン宰相に誘拐されかけている!?
 ビクビクしながらフォン宰相を見つめる。
 
「私のことを警戒しているようだね。だけど、安心してほしい。私は君に危害を加えることはないよ。」

 フォン宰相は私に向かって優しく微笑みかける。
 その笑みは今まで見たどんな笑みよりも優しさに満ち溢れていた。
 思わず私はその笑みに釣られるようにふらふらとフォン宰相のひざ元に近づく。
 すると、フォン宰相は私を大事そうにひょいっと抱き上げてしまった。
 
「……君、ちょっと軽すぎないかい?迷子になって何日経つんだい?ご飯は誰かからもらっていたのかい?お腹が空いているんじゃないか。」

 なでなでと私の頭を優しく撫でながらフォン宰相は私を大切に抱きかかえたまま裏通りをすいすいと進んで行く。その足運びに迷いは見えない。
 フォン宰相は裏通りを熟知しているのだろう。
 このままで良いのかと不安に駆られるが、フォン宰相の腕から逃れる術がなかった。
 大切に抱きかかえられているようにみえて、私がいくら身をひねってもその腕はビクともしないのだ。
 ……つまり、逃げられそうにない。

「ほら、もうすぐペット同席可なお店につくからね。暴れないでね。」

 そう言ってフォン宰相は一軒の店の前で足を止め、木で作られているドアをゆっくりとスライドさせた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幻姫と皇太子は身分を隠しお互いに惹かれ合う【全6話】

なつ
恋愛
幻姫。そう呼ばれているのは公爵家の娘カレン。幻と言われているのはただ単に社交界に顔を出さないと理由でそう呼ばれだした。 当の本人は「あんな愛想笑いの場の何が楽しいんだ」と自分のしたいことをして生きている。 襲われているカレンをたまたま皇太子が目撃し、助けようとするも自分の力で相手を倒す姿に惚れたのであった。 そう姫ではなくカレンは女帝に近いかっこいい女性。 男気が強いカレンと完全に心を奪われた皇太子との恋愛の話。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。 そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。 シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。 「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」 「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」 これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。

【完結】なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

yanako
恋愛
なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

処理中です...