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しおりを挟む「……ここまでくればもう逃げられないだろう。私のことを王宮からずっと追ってきているのは何故だね?」
フォン宰相の後を追っていた私の方を急にフォン宰相が振り返る。
ばっちり合ってしまった視線。
罰が悪くなり私は視線をそっと逸らした。
「……誰もいない、か?私の気のせいだったのか……?」
フォン宰相は私と目があったように見えたが、私がつけてきていたということは気が付かなかったらしい。
そもそも私のことを認識していないようだ。
確かに容姿はカルシファーの魔法で変えているけれど、認識阻害の魔法はかかっていないはずだ。
不思議に思って首を傾げる。
フォン宰相に見つかった時には焦ったが、フォン宰相が私に気づいて詰めていた息を吐きだす。
「……お前、逃げないのな?」
えっ!?
私に気づかなかったんじゃなかったのっ!!?
もしかして、気づかないふりをしていただけ?
気を抜いていただけに、フォン宰相が私に近寄ってきて声をかけてきたことに驚いて思わずびくりと飛び上がった。
私に安心させておいて、不意をつく算段だったらしい。
さすが腐ってもこの国の宰相である。
私は観念して目を閉じた。
「悪い悪い。君を怖がらせるつもりはなかったんだ。王宮からずっと私の後を追ってきていたのは君だね?迷子になって心細かったのかい?」
フォン宰相がしゃがんで私に話しかける。
その声からは緊迫した様子も見えない。逆に私のことを怖がらせないように配慮しているようにも思えた。
私のことを魔族の花嫁として追い出し、皇太子妃の座にアリス様をつけようとしていたのに、なぜ?と首を傾げる。
「お腹が空いているのかい?こんなところまで追ってきて。残念だが、私は君が食べれるようなものを何も持っていないんだ。でも、ここまでついてきてくれたのに、なにもあげないなんてことはしないよ。君の好物はなんだい?」
なんか、フォン宰相が私を手名付けようとしているような気がする。
どうして、こんなにも私のことを気にかけてくださるのだあろうか。
混乱で頭の中は疑問符がいっぱいになる。
「ははっ。そうだったね。私の言葉はわからないよね。じゃあ、こうしよう。私が君を抱っこして店に向かうから、そこで好きな物を指し示すといい。君の欲しいものを買ってあげるよ。」
私、もしかしてフォン宰相に誘拐されかけている!?
ビクビクしながらフォン宰相を見つめる。
「私のことを警戒しているようだね。だけど、安心してほしい。私は君に危害を加えることはないよ。」
フォン宰相は私に向かって優しく微笑みかける。
その笑みは今まで見たどんな笑みよりも優しさに満ち溢れていた。
思わず私はその笑みに釣られるようにふらふらとフォン宰相のひざ元に近づく。
すると、フォン宰相は私を大事そうにひょいっと抱き上げてしまった。
「……君、ちょっと軽すぎないかい?迷子になって何日経つんだい?ご飯は誰かからもらっていたのかい?お腹が空いているんじゃないか。」
なでなでと私の頭を優しく撫でながらフォン宰相は私を大切に抱きかかえたまま裏通りをすいすいと進んで行く。その足運びに迷いは見えない。
フォン宰相は裏通りを熟知しているのだろう。
このままで良いのかと不安に駆られるが、フォン宰相の腕から逃れる術がなかった。
大切に抱きかかえられているようにみえて、私がいくら身をひねってもその腕はビクともしないのだ。
……つまり、逃げられそうにない。
「ほら、もうすぐペット同席可なお店につくからね。暴れないでね。」
そう言ってフォン宰相は一軒の店の前で足を止め、木で作られているドアをゆっくりとスライドさせた。
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