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「ロイド様。こちらにいらしてたんですね。」

 王宮の中庭の東屋に座り昨夜のことを思い出していたロイドはアリスが近くまで来ていたことに声をかけられるまで気が付かなかった。
 
「ああ。アリス嬢。」

「ロイド様は、庭を眺めるのがお好きなのですね。」

「はは。考え事があるとここに来る癖があるだけです。」

「私とロイド様が初めてお会いしたのも、ここでしたわね。」

「……そうでしたか。すまないが、昔のことゆえよく覚えていないようだ。」

 アリスがロイドの横に座り、そっとロイドの手に触れる。
 甘い声でロイドの耳元に届くように囁き、古い記憶を語るアリスにロイドは早くどこかに行ってほしいと思っていた。

「ふふっ。私にとってはとても大切な思い出なのです。王宮に初めてきた私は迷子になってしまいこの中庭に迷い込んでしまいました。そこに偶然居合わせたロイド様が、泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくださり私をお父様の元に連れて行って下さったのですわ。」

 アリスはロイドの目を見つめながら思い出を語り始める。
 ロイドはアリスが語る思い出に身に覚えがあった。
 だが、アリスの口からでる言葉はロイドが覚えている思い出とは若干違った。
 ロイドはこの中庭でセレスティーナと遊んでいたのだ。そこにアリスが泣きながら割って入ってきた。
 アリスが迷子になっていたことは確かだが、最初にアリスに声をかけたのはロイドではなく、セレスティーナだったのだ。優しくアリスの頭を撫でて宥めたのもセレスティーナだ。ロイドは泣きじゃくる女の子に対してどう接していいかわからず、セレスティーナに視線を送ることで精一杯だったのだ。
 セレスティーナがアリスの両親のことを聞き、セレスティーナと私の二人でアリスをアリスの父の元に連れて行ったのだ。
 それなのに、アリスの思い出の中ではセレスティーナのポジションがなぜかロイドに置き換わっている。
 ロイドはそんなアリスの思い出話に眉をひそめた。
 
「失礼だが。私の思い出の中ではアリス嬢を優しく宥めたのはセレスティーナだったと記憶しているが。」

 ロイドがアリスの思い出に口を挟む。
 
「あ、あら。そうでしたかしら。なにぶん幼い頃の記憶ゆえ、正確には思い出せないのです。私もロイド様も。幼い頃の記憶はとても曖昧ですものね。仕方のないことですわ。」

 アリスは口元を一瞬だけ引きつらせたが、その後何ともないことのように続けた。
 アリスの言葉からは、ロイドの方が思い違いをしているのでは、と言いたそうに思えてロイドは余計にアリスに対して嫌悪感を覚えた。
 
「そうですね。私は忙しいので、これで失礼いたします。」

 ロイドはこれ以上アリスと話をしていたくないと、アリスの手を振り払い立ち上がった。
 アリスはロイドが立ち上がると、ロイドの手をギュッと掴んだ。
 
「もう少しだけ、ご一緒させていただけませんか?せっかくロイド様にお会いできたのですもの。あと5分だけでも構いません。私と……。」

「申し訳ない。アリス嬢。私はこう見えても仕事が山積みなんだ。」

 なおもしつこく追いすがってくるアリスの手を振り払う。
 
「まあ。でも、私たちもうすぐ婚姻するのです。婚姻する前に私はもっとロイド様との距離を近づけたいと……。どうしても駄目でしょうか。」

 アリスは目に涙をいっぱい浮かべながらロイドのことを見つめた。
 ロイドはアリスの言葉にギョッと目を剥く。
 
「誰が、誰と婚姻を結ぶですって?」











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