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しおりを挟む「う……んぅ……セレス……ティナ……。」
カーテンの隙間から漏れる朝日がロイドの顔にかかる。
ロイドは眩しそうに目を擦ると、ゆっくりと目を開いた。
昨夜腕の中にあったはずの柔らかく暖かな優しい温もりは既にロイドの元を去った後だった。
「あ……っ。行ってしまったのか……。」
残念そうにロイドは呟いて、昨夜の温もりを確かめるように腕を触る。
「夢、だったのかな……。」
そう思いながら、昨夜の黒猫が寝ていた場所をみると、黒いふわふわとした毛が数本取り残されていた。
ロイドはその黒い毛をそっと手に取ると握り締める。
「夢じゃなかったんだな。」
不思議な黒猫だったなと、ロイドは思った。
まるで意思疎通ができているような気がしたのだ。
それになにより、あの黒猫が側にいるとロイドはとても安心したのだ。まるで、セレスティナの隣にいるときのような安心感がロイドの身体を包み込んだ。
「もう一度、会えるかな。」
そう言ってロイドは僅かに開いている窓の隙間を見つめた。
☆☆☆☆☆
「……時期尚早だ。」
「ですがっ!陛下っ!!国の為を思えばこそっ!!」
フォン宰相は皇帝陛下にアリスを皇太子妃にすべきだと告げた。
それに対して皇帝陛下は考えるそぶりを見せるもフォン宰相の意見を却下した。
フォン宰相はいつもになく声を荒げて皇帝陛下にアリスを皇太子妃にするのは国のためなのだと力説する。
「……考える時間が欲しい。」
「いえ。巫女様がお亡くなりになったのです。これ以上、民を不安にさせるべきではございませんっ!魔族の花嫁となってしまったセレスティナ皇太子妃の代わりに新たな皇太子妃が今すぐにでも必要なのです。新たな皇太子妃をお披露目することこそ、不安になった民の心に希望を灯すことができるのです。それに、アリス様は民にとても慕われています。聖女のようだと街で噂されております。そのようなアリス様だからこそ皇太子妃になることで、民たちは安心するというものです。どうか、今すぐご決断ください。」
皇帝陛下はさっさとフォン宰相の前から去ろうと立ち上がるが、フォン宰相は皇帝陛下が去るのを追うがごとく、早口でまくし立てる。いかにアリスが皇太子妃として相応しいのか。いかにアリスが民に慕われているのか。滔々とフォン宰相は語りだす。
皇帝陛下はそんなフォン宰相を冷めた目で見つめている。
「……皇太子妃の件は熟考すべき事柄だ。」
皇帝陛下は苦々しい表情を浮かべてフォン宰相に言い放つ。
なおも追いすがろうとするフォン宰相を振り払い皇帝陛下は自室に戻った。
自室のソファーにどかりと重い腰を下ろした皇帝陛下は思案するように宙に視線を彷徨わせた。
巫女が死したことは皇帝陛下の心に重くのしかかっていた。
皇帝陛下は巫女の言葉を信じすぎてセレスティナを巫女の言う通りに魔族の花嫁としたことを悔いていた。
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