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しおりを挟む私はとてもは幸せだった。
もう二度と会えないと思っていたロイド殿下と再び会うことができたのだから。
姿かたちはセレスティナの姿ではなかったとしても、再びロイド殿下と触れ合うことができてうれしかった。言葉も通じなかったけれど、それでも私はとても嬉しかったのだ。
短い時間だったけれども、ロイド殿下の腕の中で眠りにつくこともできた。
カルシファーと取返しのつかない約束を交わしてしまったけれど、それでも私はロイド殿下にもう一度会えたことが何よりも嬉しかったのだ。
ロイド殿下の腕の中でまどろむように眠りにつき、目が覚めたのは朝日が昇る寸前だった。
「いけないっ!寝過ごしてしまったわ。」
ロイド殿下の体温が気持ちよくてついうっかり眠ってしまっていた。
私はロイド殿下に気づかれないようにそっとロイド殿下の身体から離れる。
ロイド殿下から離れたことで失われた体温が少しだけ切なかった。
するりとベットから抜け出すと、器用に窓を少し開ける。
息を大きく吸って窓の空いた隙間から外へとすり抜けて、壁を伝いながらぴょんぴょんっと地面に降りた。
「……便利な身体ね。」
カルシファーのお陰で身体能力がグッと上がったようだ。バランス感覚も今までよりもずっと上がっている。
どこかに潜り込むには都合の良い能力だ。
カルシファーとの約束では、日が昇りきらないうちにカルシファーの元へと戻らないとならない。じゃないと、その場で魔法が解けてしまい私は泡と帰すらしい。
まだ泡にはなりたくない私は日が昇る前にカルシファーが待っている街外れまで向かう。
軽やかな身体は思ったよりもスピードが出て楽しい。
「ふんっ。すっかりその身体が気に入ったようだな。」
「え?」
カルシファーと約束した街外れまではまだ距離があるのに、不意に頭上からカルシファーの低い声がしたかと思うと襟首を掴まれてひょいっと持ち上げられてしまった。
「ちょっと。降ろしてちょうだいっ!!」
手足をバタバタさせてみるが、カルシファーが降ろしてくれるような素振りはない。
それどころか、そのまま私を胸に抱きかかえてしまった。
「放してっ!!放してよっ!!」
とすっとすっとカルシファーの胸元を叩いてみるが、全然痛くないようで素知らぬふりをしている。
ジタバタと藻掻く私と涼し気な表情で私を胸に抱きかかえるカルシファー。
全く持って不本意である。
「さて、帰るか。」
「もうっ!抱きかかえなくても一緒に戻るから!だから放して頂戴っ!!」
私が逃げることが心配なのだろうか。
そう思って逃げないと伝えてみても、カルシファーは一向に私を放す気はないようだ。
私の抵抗も虚しく私はカルシファーに抱きかかえられたまま魔界に戻ることになったのだった。
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