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しおりを挟む「まだ数日前のことなのに、とても懐かしいわね……。」
結局カルシファーと悪魔の約束を交わしてしまった私は、オウルパーク王国の王都にカルシファーと供に足を踏み入れた。
夜のオウルパーク王国の王都はいつも通りの町並みだった。
深夜に近い時間帯か、人もほとんど出歩いてはいない。王都にしては静かな町並みだ。
「さて、約束は覚えているな?」
「……ええ。」
「約束を違えないように。オレはどこにいてもおまえを見ているからな。」
「……わかったわ。」
「さて、ここから先は自由時間だ。朝日が昇る頃に迎えにくる。」
「……ええ。」
カルシファーはそれだけ言うと私を置いて姿を消していった。
残された私は低い視線で王都の町並みを再度眺めた。
いつもと変わらない町並みなのに視線が低いだけで印象が異なる。
私はひとまずロイド殿下のいる王宮を目指した。
☆☆☆☆☆
「にゃあ~。」
夜も更けた深夜2時。草木も眠る静かな時間。
ロイドの寝室にか細い小さな声が届いた。
セレスティーナがいなくなってから眠りが浅くなったロイドは、小さなその声にすぐに気づいた。
そして首を傾げる。
なぜ、猫の鳴き声がするのだ、と。
王宮で猫を飼っている女官がいるとは聞いているが、ロイドがいるのは王宮の奥まった部分で、到底猫が迷い込んでくるような場所ではない。
不思議に思いながらもロイドは寝台からそっと降りる。
「にゃあ~。」
猫の声はロイドが寝ている部屋の外から聞こえてきた。
ロイドは窓をガラッと開ける。
そして、視線をあちらこちらに移すと、ロイドの部屋の真下の庭に一匹の黒い猫がいた。
「にゃあ~。」
ロイドと猫の視線がばっちり合うと猫は嬉しそうに尻尾をピンッと立て、目を細めた。
「迷子か?待っていろ。すぐにそちらに行く。」
ロイドは黒い猫にそう言うと、すぐに部屋をでて外に向かった。
黒い猫はロイドが外に出てくるまで、その場でちょこんと座ってロイドのことを待っていた。
しつけが行き届いているようだ。
ロイドは黒い猫の艶やかな毛並みを見て、ふと触りたい衝動にかられる。
ロイドは猫が嫌いではなかったが、好きでもなかったはずだ。
穏やかで優雅な猫を好ましいと思ってはいても、触りたい抱きしめたい頬ずりしたいなどと思ったことはただの一度もなかったはずだ。
それなのに、目の前にいる黒い猫はなぜかロイドに触りたい、抱きしめたい、頬ずりしたいと言った気持ちにさせた。
「……なあ、触っていいか?」
「にゃあ~。」
ロイドが黒い猫に尋ねると、黒い猫は了承するように鳴いた。
ロイドは黒い猫のその返事に頷くと、そっと黒い猫に手を伸ばし、黒い猫の頭を撫でる。
黒い猫はロイドに触れられるのが嬉しいのか、頭をロイドの手に擦りつけた。
「……おまえ可愛いな。」
「にゃあ。」
何度も何度もロイドは黒い猫をなで回す。
何度も何度も。
黒い猫はなにも言わずにロイドに身を預けた。
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