上 下
9 / 26

しおりを挟む




☆☆☆☆☆

「今頃ロイド殿下はどうなさっているのかしら。オウルパークの情勢はどうなっているのかしら。……ロイド殿下に新しい妃ができたのかしら。」

 ロイド殿下は私のことを迎えに来てくださると言っていたが、生きているか死んでいるかもわからない元皇太子妃なんて探すのが難しいし、周囲が探すことを良しとしないだろう。
 代わりにロイド殿下の新しい妃を探す方に周囲は力を入れることだろう。
 そうして、妃に一番近いのは、私と皇太子妃の座を競ったアリス侯爵令嬢だ。
 年は私と同じだし、容姿端麗で器量よしときた。周囲も最初は私よりもアリス侯爵令嬢をロイド殿下の妃に、と進めていたくらいだ。
 私がいなくなったら、きっとアリス侯爵令嬢がロイド殿下の妃に納まるのだろうことは容易く想像ができた。
 
「知りたいのか?オレとの約束を交わせば夜だけ連れてってやるが?」

 誰に言うでもなく呟いた言葉を魔族のカルシファーが地獄耳で拾っていたようだ。
 
「……あれは約束とは言わないわ。私に祖国を裏切れっていうのかしら?」

 カルシファーにお願いすれば私は夜だけ祖国に帰っても良いと言われている。その際、この姿だと目立つため、カルシファーが目立たないように私を変身させてくれるらしい。
 まあ、カルシファーからのお願いのことを考えれば私を変身させた方が都合がいいのだろう。
 
「裏切れとは言っていないが?」

「裏切れと言っているようなものよ。」

「……まあ、仮にそうだったとして、あの国はお前のことを人質として魔族に差し出したのだ。あの国への愛着などないだろう?おまえを捨てたあの国がどうなろうと気にしないだろう?」

 カルシファーは整った容姿からは考えられないほどに冷酷な声を出す。流石は魔族だ。
 その声だけで私の身体に寒気が走った。

「……確かにそうだけれども、捨てられたとは思っていないわ。」

「そうか。殊勝な心掛けだな。」

「ロイド殿下は私のことを取り戻すとおっしゃっていたもの。」

「ふぅん。魔界の場所もわからないのに、どうやって取り戻そうっていうんだか。」

「巫女様ならご存知のはずだわ。だって、巫女様が私を魔界に送ったのでしょう?」

 魔族が私を迎えにきたのではない。私が巫女様の力によって魔界に送られたのだ。
 
「ふぅん。まあ、そうだな。巫女とやらの力によってお前は魔界に転移させられた、それはあっている。だが、その巫女は死んだぞ?おまえを魔界に転移させたからな。」

「えっ!?どうして!?」

 カルシファーの言葉に私は驚きを隠せなかった。
 まだ巫女様は年若い女性であったはずだ。
 儀式の時に会った巫女様の姿は20代前半に見えた。
 寿命で死ぬはずがない。
 
「さてな。そこまではオレもわからん。ただ、おまえを魔界に転移させた直後にその気配が消えた。つまりは死んだということだ。」

「……どういうこと。巫女様が嘘をついていたというの?」

 神の代弁者である巫女様は、神からの言葉を偽ってはならない。偽った場合はその命を散らすことになる。
 そう伝え聞いている。
 私を魔界に転移させたことで巫女様が亡くなったのだとしたならば、私を魔界に転移させた行為は神の意思ではなかったということ。それは、つまり、私は魔族の花嫁に占いによって選ばれたのではないということ。
 巫女様が嘘をついたということ。

「国に帰りたくなっただろう?なら、オレと約束を交わせ。」

「……あなた卑怯ね。」

「魔族だからな。」

 カルシファーは私の心の隙をつくようにニヤリと笑った。
 私はカルシファーの言いなりになる気はない。祖国を裏切るつもりもない。
 でも、巫女様が嘘をついた理由を知りたいと強く願ってしまったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...