上 下
7 / 15

しおりを挟む

「ロイド様っ。お可哀想なロイド様。」

 愛するセレスティーナが闇の中に消えた。それと同時に、セレスティーナを魔族の花嫁にと神のお告げを告げた巫女が亡くなった。
 つまり、あの巫女は嘘を吐いていた、ということだ。
 つまり、セレスティーナは魔族の花嫁にならなくてもよかったということだ。

「ロイド様。セレスティーナ様はいなくなってしまわれましたが、私はずっとロイド様のお側におりますわ。だから、ご安心くださいませ。ロイド様。」

 先ほどからアリス嬢がオレの周りをうろうろとうろついている。
 目を潤ませながら、上目遣いでオレのことを見上げてくる。
 そっと、オレの右半身に身体を寄せようとしてくるので、さりげなくアリス嬢から距離を取る。
 
 セレスティーナが魔族の花嫁となる儀式をおこなっている最中、オレはこともあろうに自室で眠りこんでいた。それはもうぐっすり、と。
 誰かに薬を盛られたのではないかと思うほどだ。
 セレスティーナがオレが儀式を邪魔するのではないかと懸念してオレに薬を盛ったのか、それとも別の誰かがオレに薬を盛ったのか。後者だとは思うが、いかせん証拠が何もない。
 誰にも不審なそぶりはなかったのだ。
 いや、セレスティーナが魔族の花嫁に決まったことに動揺していたのは確かだ。誰かが、オレの隙をついたのだろう。

「ロイド様。セレスティーナ様がいなくなって寂しいのですわね。わかりますわ。そのお気持ち。私もセレスティーナ様がいなくなってとても寂しい思いをしておりますのよ。セレスティーナ様は私たち貴族のお姉様のような存在でしたもの。でも、そんなセレスティーナ様だから、魔族の花嫁としてこの国を守る存在として神様が選ばれたのでしょうね。それはとても誇らしいことでございますわ。」

「巫女が死んだと聞いたが?」

 いつにもなく僥倖なアリス嬢に眉をしかめながら、問いかける。
 巫女が死んだのだ。
 セレスティーナは神が決めた魔族の花嫁ではなかったということだ。

「……知ってます?ロイド様。巫女は死ぬ者ですの。自分よりも巫女に相応しい存在が現れたとき、巫女は死ぬんですの。あの瞬間、死んだ巫女様よりも巫女としての力が強い巫女様がお生まれになったのですわ。だから、巫女様は亡くなったのです。決して巫女様のお言葉が嘘偽りだったわけではございませんわ。」

 アリス嬢はいつもの口調よりも早口で巫女のことを告げる。
 どこかアリス嬢の視線が先ほどより上を向いているような気がする。

「……そんな話は聞いたことがないがな。巫女は神のお告げと違うことをすると死すと聞いているが?」

「まあっ。では、ロイド様は巫女様が嘘をおつきになったと言いますの?」

 アリス嬢は目を大きく見開いて驚いてみせた。
 どこかアリス嬢のその表情が白々しく見えた。

「本当はアリス嬢が魔族の花嫁であったのではないか?」

「そうですわね。未婚の者から選ばれたのは私ですわ。でも、それだとおかしいからと対象範囲を広げただけですわ。そうしたら、私ではなくセレスティーナ様の方が相応しいと神が選ばれたのです。」

 アリス嬢はすらすらと答える。まるで答えをあらかじめ用意していたようにも思えた。

「それはおかしくないか。先ほど気づいたのだが、最初の選定がおこなわれたのは、まだセレスティーナが皇太子妃となる前であったはずだ。」

 昨夜は突然のことに動転していたが、時間軸がおかしいのだ。
 アリス嬢が魔族の花嫁に選ばれたときはまだセレスティーナは皇太子妃とはなっていなかったはずだ。
 オレがそのことを告げるとアリス嬢は顔を一瞬だけ歪めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女を妃にした理由

つくも茄子
恋愛
ファブラ王国の若き王が結婚する。 相手はカルーニャ王国のエルビラ王女。 そのエルビラ王女(王妃)付きの侍女「ニラ」は、実は王女の異母姉。本当の名前は「ペトロニラ」。庶子の王女でありながら母親の出自が低いこと、またペトロニラの容貌が他の姉妹に比べて劣っていたことで自国では蔑ろにされてきた。今回も何らかの意図があって異母妹に侍女として付き従ってきていた。 王妃付きの侍女長が彼女に告げる。 「幼い王女様に代わって、王の夜伽をせよ」と。 拒むことは許されない。 かくして「ニラ」は、ファブラ王国で王の夜伽をすることとなった。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

聖女様に貴方の子を妊娠しましたと身に覚えがないことを言われて結婚するよう迫られたのでもふもふな魔獣と旅にでることにした

葉柚
ファンタジー
宮廷魔術師であるヒューレッドは、ある日聖女マリルリから、「貴方の子を妊娠しました。私と結婚してください。」と迫られた。 ヒューレッドは、マリルリと二人だけで会ったこともなければ、子が出来るような関係を持ったこともない。 だが、聖女マリルリはヒューレッドの話を聴くこともなく王妃を巻き込んでヒューレッドに結婚を迫ってきた。 国に居づらくなってしまったヒューレッドは、国を出ることを決意した。 途中で出会った仲間や可愛い猫の魔獣のフワフワとの冒険が始まる……かもしんない。

今日も今日とてモフられて

やなぎ怜
恋愛
スズは犬に変身することができる半獣半人だが、現代社会ではこれといって役に立たない体質だ。スズはもっぱら、ストレス発散のために犬に変身しては野を駆け回ることが習慣となっている。スズは犬になっているときに森の中で若い狼と出会う。以来、なにかと出くわす狼と自然と仲が深まるスズ。だがしかし狼の正体がスズと同じ半獣半人の男性だと判明する出来事があり――? ※最終的には恋愛をにおわせて終わりますし、書きたかったのはそこなんですが、本編は恋愛要素が薄いです。いちゃついてはいます。 ※他投稿サイトにも掲載。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

【完結】婚約破棄?喜んで!~溺愛王子のお妃なんてお断り。悪役令嬢の私は猫と旅に出ます~

碧空宇未(あおぞら うみ)
恋愛
※他サイトベリーズカフェ短編コンテスト『悪役令嬢』で、佳作受賞した作品です。 『悪役令嬢 × もふもふ《猫》×旅』の短編物語です。 王子『レオン』の成人祝いのパーティーに出席した主人公『ジュリア』。 王子の婚約者は自分だが、彼の横には聖女『ユリア』がいる。 みんなの前で婚約破棄されるがジュリアは冷静。実は彼女は転生者でこの世界が乙女ゲームだと知っていた。 自分は『悪役令嬢』、王子とは結ばれない。 「婚約破棄? 喜んで!」と伝え、ジュリアは会場をあとにする。 聖女が現れたのをきっかけに自由を求めて城をあとにするが、 なぜか猫連れの旅に……? 旅の目的地は海の先にある「猫島」。 ジュリアは無事にたどり着けるのか? 「溺愛」×「悪役令嬢」×「もふもふ(猫)」のお話でもあります。 ※)ざまぁ要素はありません。  猫に癒され、わくわくするようなお話です。    ひとときでも楽しんでもらえますように✩︎‧₊ *。 ★こちらは毎日更新中。ベリーズカフェ、カクヨムにて完結作品読めます。

婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。

ララ
恋愛
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。 愛する彼は他の女性を選んで、彼女との理想を私に語りました。 結果慰謝料を取り婚約破棄するも、私の心は晴れないまま。

【完結】殿下の本命は誰なのですか?

紫崎 藍華
恋愛
ローランド王子からリリアンを婚約者にすると告げられ婚約破棄されたクレア。 王命により決められた婚約なので勝手に破棄されたことを報告しなければならないのだが、そのときリリアンが倒れてしまった。 予想外の事態に正式な婚約破棄の手続きは後回しにされ、クレアは曖昧な立場のままローランド王子に振り回されることになる。

処理中です...