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「ロイド様っ。お可哀想なロイド様。」

 愛するセレスティーナが闇の中に消えた。それと同時に、セレスティーナを魔族の花嫁にと神のお告げを告げた巫女が亡くなった。
 つまり、あの巫女は嘘を吐いていた、ということだ。
 つまり、セレスティーナは魔族の花嫁にならなくてもよかったということだ。

「ロイド様。セレスティーナ様はいなくなってしまわれましたが、私はずっとロイド様のお側におりますわ。だから、ご安心くださいませ。ロイド様。」

 先ほどからアリス嬢がオレの周りをうろうろとうろついている。
 目を潤ませながら、上目遣いでオレのことを見上げてくる。
 そっと、オレの右半身に身体を寄せようとしてくるので、さりげなくアリス嬢から距離を取る。
 
 セレスティーナが魔族の花嫁となる儀式をおこなっている最中、オレはこともあろうに自室で眠りこんでいた。それはもうぐっすり、と。
 誰かに薬を盛られたのではないかと思うほどだ。
 セレスティーナがオレが儀式を邪魔するのではないかと懸念してオレに薬を盛ったのか、それとも別の誰かがオレに薬を盛ったのか。後者だとは思うが、いかせん証拠が何もない。
 誰にも不審なそぶりはなかったのだ。
 いや、セレスティーナが魔族の花嫁に決まったことに動揺していたのは確かだ。誰かが、オレの隙をついたのだろう。

「ロイド様。セレスティーナ様がいなくなって寂しいのですわね。わかりますわ。そのお気持ち。私もセレスティーナ様がいなくなってとても寂しい思いをしておりますのよ。セレスティーナ様は私たち貴族のお姉様のような存在でしたもの。でも、そんなセレスティーナ様だから、魔族の花嫁としてこの国を守る存在として神様が選ばれたのでしょうね。それはとても誇らしいことでございますわ。」

「巫女が死んだと聞いたが?」

 いつにもなく僥倖なアリス嬢に眉をしかめながら、問いかける。
 巫女が死んだのだ。
 セレスティーナは神が決めた魔族の花嫁ではなかったということだ。

「……知ってます?ロイド様。巫女は死ぬ者ですの。自分よりも巫女に相応しい存在が現れたとき、巫女は死ぬんですの。あの瞬間、死んだ巫女様よりも巫女としての力が強い巫女様がお生まれになったのですわ。だから、巫女様は亡くなったのです。決して巫女様のお言葉が嘘偽りだったわけではございませんわ。」

 アリス嬢はいつもの口調よりも早口で巫女のことを告げる。
 どこかアリス嬢の視線が先ほどより上を向いているような気がする。

「……そんな話は聞いたことがないがな。巫女は神のお告げと違うことをすると死すと聞いているが?」

「まあっ。では、ロイド様は巫女様が嘘をおつきになったと言いますの?」

 アリス嬢は目を大きく見開いて驚いてみせた。
 どこかアリス嬢のその表情が白々しく見えた。

「本当はアリス嬢が魔族の花嫁であったのではないか?」

「そうですわね。未婚の者から選ばれたのは私ですわ。でも、それだとおかしいからと対象範囲を広げただけですわ。そうしたら、私ではなくセレスティーナ様の方が相応しいと神が選ばれたのです。」

 アリス嬢はすらすらと答える。まるで答えをあらかじめ用意していたようにも思えた。

「それはおかしくないか。先ほど気づいたのだが、最初の選定がおこなわれたのは、まだセレスティーナが皇太子妃となる前であったはずだ。」

 昨夜は突然のことに動転していたが、時間軸がおかしいのだ。
 アリス嬢が魔族の花嫁に選ばれたときはまだセレスティーナは皇太子妃とはなっていなかったはずだ。
 オレがそのことを告げるとアリス嬢は顔を一瞬だけ歪めた。
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