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しおりを挟む「……ろ。……きろ。」
「ん……うぅん……。」
なんだか男の人の声が聞こえてくる。なんて言っているのかわからない。
現実なのか幻聴なのかもわからない。
ただ、わかるのはロイド殿下の声ではないということだけ。
……ロイド殿下。お会いしたい。
「おいっ!!いい加減起きろっ!!」
「ぴゃあっ!!?」
まだ意識を浮上させたくなくて、まどろんでいると今度は、耳元で大きな声が響き渡り、耳を押さえて私は飛び起きた。
「……起きたな。人質。」
「……人質?」
「人質」という言葉に身に覚えがなくて私は首を傾げる。
「寝ぼけているのか?おまえは、オウルパーク国の人質であろう?」
オウルパーク国というのは、私の生まれ育った国だ。
「……人質ですか?私は花嫁とか、生け贄とか聞いて参りましたが。」
「花嫁に、生け贄?意味合いが180度違うだろうか。」
「そうですね。表向きは花嫁。実際は生け贄だと聞いております。」
「……生け贄ねぇ。殺す気はねぇよ。殺したりなんかしたら、人間が魔界に攻め入ってくる絶好の言い訳になっちまうだろうが。」
「そうですか。殺さないでいてくれるなら、ありがたいです。ロイド殿下にまたお会いしたいですもの。」
「……人質だってことは理解してくれよ。」
「ええ。命があれば良いですわ。花嫁になるのは嫌ですけど。」
「花嫁ってぇのは、人間たちが勝手に決めただけだろう?」
「そうなんですの?」
「ああ。そうだよ。オレ達は花嫁をよこせなんて一言も言ってねぇからな。」
「……では、なんで私はここにいるのかしら?」
誰だかわからない男性との会話の最中に私はまた首を傾げる。
私は魔族の花嫁という名の生け贄になったはずだ。
「……人間たちが勝手におまえをよこしたんだよ。厄介払いされたんじゃないか?おまえ?」
「なっ!失礼なっ!私は皇太子妃でしたのよ。それなのに、皇太子であるロイド殿下と引き離されたのです。もちろん、ロイド殿下は私のことを引き留めてくださいましたわ。」
「……実はそのロイドってやつに厄介払いされたんだろう。おまえより相応しい皇太子妃が見つかったとか。」
「まあ。あなたってば失礼ですわね!って、あなた誰ですの?」
ついうっかり喋ってしまったが、目の前にいるのは私が知らない男性だ。しかも、言動からするに魔族なんだと思う。
魔族と言えば人間よりも強い腕力を持ち、強力な魔法を使う種族だ。
「……カルシファーだ。さて、元気が良すぎる人質よ、おまえを祖国に帰す訳にはいかない。なぜだか、わかるな?」
カルシファーと名乗った赤毛の魔族は無表情に言った。
「……でも、人間たちに勝手に押しつけられているのでしょう?私なんて不要でしょ?でも、私を帰せないということは、私が帰ったら、魔族は人間の人質を受け入れなかった。人質に問題があったのだろう。次の人質を送らなくては……。ということかしら?」
「まあ、そうだ。似たようなものだな。だから、そのままの姿では帰せないな。」
「……そう。私もこのまま祖国に帰ったら、人質として役に立たなかったと糾弾されそうね。」
カルシファーの言いたいことはよくわかった。
私は皇太子妃だったが、万人に受け入れられていたわけではない。
アリス様を皇太子妃にと推す声の方が多かったのだ。そのため、アリス様を皇太子妃にしたかった派閥からは嫌われている。このことを好機として、戻ったとしても難癖をつけて追い出されるか最悪処刑される可能性もある。
私がオウルパーク国に帰るにはオウルパークの情勢も変えなければならないのだ。
「そうだ。だが、このオレと約束を交わせば、人目を忍んだ姿でオウルパーク国に夜の間だけ行ってもいいぞ。そのままの姿で行くのは危険だからな。どうする?」
カルシファーはそう言って不敵に笑ったのだった。
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