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しおりを挟む魔族の花嫁とは名ばかりで、実は生け贄だったことを知った私は人知れず涙を一筋溢した。
せっかく施してもらった化粧が涙と供にくずれていく。
ロイド殿下と約束をしたのに。
また一緒になろう、と。
それなのに、生け贄とは……。
私は、このまま死ぬしかないのだろうか。
「ああ、おかわいそうなセレスティーナ様。」
大げさなくらいにアリス様が泣き崩れる。
「アリス様はとても愛情深い人なのね。」
「アリス様はセレスティーナ様の為にあんなに泣いてくださるなんて……。」
侍女たちもアリス様の涙に釣られるように、涙を流す。
侍女たちはアリス様のことを認めているようだった。
「……アリス様。そのように泣かないでくださいませ。私は、この国のために身を捧げますわ。」
アリス様に向かって虚勢を張る。
本当はこのまま泣き崩れたい。
だけれども、泣き崩れたところで何も変わらない。
それなら、アリス様に向かって余裕の笑みを浮かべた方が良いだろう。
アリス様に弱みはみせないためにも。
「まあ、セレスティーナ様はなんて素晴らしいお方なのでしょうか。ロイド様よりも国のために身を差し出されるなんだんて。私にはとうてい出来ないことです。」
アリス様はそう言ってまた泣いた。
本当にアリス様は泣いてばかりだ。
それにしても、アリス様の言葉はどこか棘を含んでいるような気がするのは私の気のせいだろうか。
「……皇太子妃として、国のために身を捧げると誓いましたもの。」
ロイド殿下と二人でこの国をより豊かに民たちが過ごしやすい国にしようと誓い合った。
ロイド殿下のお側にずっと居たいが、私のわがままで国を傾けることなどできないのだ。
「セレスティーナ様はとても立派なお考えをお持ちですのね。セレスティーナ様がこの国の皇太子妃で、私とってもよかったと思っていましたのよ。セレスティーナ様。どうか、魔族の花嫁になってもこの国をお守りくださいね。」
「……ええ。」
☆☆☆☆☆
「皇太子妃セレスティーナよ。こちらに。」
魔族の花嫁となる儀式は厳かに進められていく。
皆、沈痛な面持ちを隠しきれない様子だ。
皇太子妃となったばかりの私が魔族の花嫁となることを不安に思っている者も多いのだ。
やっと決まった皇太子妃。その皇太子妃がいなくなる。
民にとっては、寝耳に水だろう。
数ヶ月前の王都は皆、嬉しそうだったのに。今日は誰も彼も皆沈痛な面持ちを浮かべているようだ。一部を除いて。
「……すまない。」
皇帝陛下は私にだけ聞こえる声で小さく謝罪してきた。
皇帝陛下でも占いの結果に意を唱えることはできないのだ。
「いいえ。占いの結果なら仕方がありません。」
「そうか……。これより花嫁の議を始める。」
皇帝陛下の合図と供に、白装束に身を包んだ巫女が私の前に表れる。
巫女の手には聖なる木の枝が握られている。
巫女は枝を両手で上げ下げしながら、私の周りを3度回った。
そうして最後に巫女が持っている枝を私に差し出す。
私はその枝を手に取り、頭上に掲げた。
途端に視界が黒く染まっていく。
「ひっ……。」
人々の押し殺した悲鳴が聞こえてくる。
きっと私は闇に包まれているのだろう。
文献では魔族の花嫁は闇に包まれて消えていった。と、あるとアリス様が教えてくれた。
きっと、私も今は闇に包まれているはずだ。
もう一度、最後にロイド殿下にお会いしたかった。一目だけで良いから。
でも、ロイド殿下は魔族の花嫁の儀式に姿を現さなかった。
それがロイド殿下の意思なのか、周囲の者の意思なのかははっきりとしないけれど。
私にはわかる。ロイド殿下はきっとこの儀式をぶち壊そうとしただろう。だから、周囲の者に止められて軟禁されているのかもしれない。もしくは、私を取り戻す算段を立てているのかもしれない。
ロイド様のことを思いながら私の意識は深い闇の底に沈んでいった。
☆☆☆☆☆
「……なっ!巫女よ!!」
「きゃあっ!!巫女様っ!!」
占いの結果を偽り、セレスティーナを魔族の花嫁とした巫女は黒い闇が去った後、その場に倒れ込んだ。
周囲の者が慌ててかけよるが、既に巫女の命は途絶えていた。
皇帝陛下は頭を抱えたくなった。
「巫女が……偽りを述べていたというのか。」
皇帝陛下は呆然と呟いた。
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