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 ラルルラータの町は活気に満ちていた。また、不思議なことに隣町である僕たちの町が全て焼き尽くされてしまったというのに、自分たちの町は大丈夫だろうか?という危機感もなさそうだ。

 と、言うよりも……。

「……僕たちの町が火事になったことを知らない?」

「……そうみたいね。誰も私たちの町の話をしていないわ。歩いて2日ほどの町が何者かに焼き払われたというのにまったく話題に上がっていないわ。」

 それはとても不思議なことだ。町が一つ壊滅したのなら、誰かしら話題にしていてもおかしくないというのに。

 僕たちが住んでいた町は、ラルルラータの町と交流が盛んではなかったとしても、ある程度の情報は出回るはずだ。それとも、一週間以上が経ったから僕たちの町の話などとうに過ぎ去ってしまったのだろうか。

「ねえ、ロレインちゃん。僕たちの町はラルルラータの町とは取引がなかったの?」

「いいえ。そんなことはないわ。ラルルラータ町が一番近いんだもの。私が育てていた羊の毛や山羊のミルクを加工したチーズなどをラルルラータの商人に買い取ってもらっていたわ。だから、全く話題にのぼらないということはないと思うんだけど……。」

 町の生き残りだと言っていいものか悪いものなのか判断できない状況では、僕たちの町の名前を安易に口に出すことはできない。

 もし、生き残りだとバレたら始末されてしまうかもしれないから。

 それは避けたい。でも、町のことを聞きたい。もしかしたら僕たち以外にも逃げ延びている人たちがいるかもしれないのだから。

「聞いてみる?食堂だったらいろんな情報ありそうだし。冒険者が良く行くと思う食堂を探してみようよ。」

「そうね。それとなく聞いてみようかしら。」

 僕たちは冒険者が好んで使いそうな食堂を探した。そして、その食堂に入ってみる。

 ごくごく普通の食堂だが、盛りが良いので冒険者に好まれている食堂のようだ。よくみれば、昼間からお酒を飲んでいる人もいる。

「すみません。お勧めの定食をください。」

「私はAランチで。ミコトちゃんはどうする?」

「ロレイン、同じの。」

「はーい。注文承りました!すぐに持ってくるからね。」

「よろしくお願いします。あの、ところで……。」

 食堂のお姉さんは元気よく返事をするとすぐ去って言ってしまう。忙しいらしい。ちょうど昼食時だもんね。仕方ないよね。

 でも、それ以上に気になることが……。

「忙しいから仕方ないわよね。」

 ロレインちゃんも口をはさむ隙がなかったようで苦笑している。

「うん。でも、さ。ロレインちゃん。そう言えば、僕たちの町は何ていう名前なんだっけ?」

 そう。僕は僕たちが住んでいた町の名を思い出せないのだ。食堂のお姉さんに声をかけたとき、町の名前を出そうとして町の名前を思い出すことができなかった。

 そうそう簡単に自分の住んでいた町の名前を忘れることがあるのだろうか。

 そんなばかな。産まれてからずっと育ってきた町だ。いくら、じいちゃんの家からほとんど出たことがなくたって、町の名前くらい覚えているのが普通だ。

 僕も確かに覚えていたはずなんだ。

「え?なにを言っているの?シヴァルツくんったら。忘れちゃったの?私たちの町の名前はね…………え?……あれ?なんだったっけ?……おかしいわね。思い出せないわ。」

 ロレインちゃんはしょうがないわねぇ。と笑いながら僕に町の名前を教えてくれようとしたが、その笑顔が途中で消える。

 どうやら僕だけでなく、ロレインちゃんも思い出せないようだ。

「町の名前、知らない。」

 ミコトもわからないらしい。いや、ミコトにはそもそも町の名前を教えた覚えがないから、知らないが正しい。

 でも、それにしても、これはとてもおかしいことだと思う。

 生まれ育った町の名前を僕だけでなく、ロレインちゃんも思い出せないだなんて。


 

 

 
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